記事No | : 94 |
タイトル | : GESORTING 167 「おっぱいがいっぱい」も三木作品 |
投稿日 | : 2009/05/16(Sat) 14:29:30 |
投稿者 | : geso |
[三木たかしを悼む]
嗚呼,この人も死んじゃったか... 抽斗の数が多いオールラウンドな作曲家,でも軸足はあくまで歌謡曲!というところが良かった.
俺の「ゲソテリック歌謡曲」――私家版歌謡曲オムニバスカセットシリーズ――は,お馴染みの曲はあまり入れないというポリシーだったので,収録曲に三木作品は少ない.確認したところ,坪倉伊織「王様と私」,若草智恵「愛してルンバ」,KIDS「青い渡り鳥」,黛ジュン「不思議な太陽」,伊藤咲子「いい娘に逢ったらドキッ」,美保純「裏切り人形(ドール)」,豊田清「青春PART 1」の7曲のみだった.
勿論ヒット曲の中にも好きな曲は多い.泉アキ「恋はハートで」(これが作曲家デビュー作とのこと),浅丘ルリ子「愛の化石」,森山良子「禁じられた恋」,あべ静江「突然の愛」,伊藤咲子「乙女のワルツ」,琴風豪規「まわり道」,中村晃子「恋の綱わたり」,西田佐知子「神戸で死ねたら」,森進一「北の螢」等々.因みに「乙女のワルツ」と「北の螢」の作詞は阿久悠である.
[八王子市夢美術館『氾濫するイメージ――反芸術以後の印刷メディアと美術1960's-1970's』]
60年代〜70年代というよりも昭和40年代と言った方がしっくりくる時代の,日本のアングラアート界を回顧する展覧会だが,作家は赤瀬川原平,木村恒久,中村宏,タイガー立石,つげ義春,宇野亜喜良,粟津潔,横尾忠則の8人に絞られている.展示点数は700以上あり,中身も濃くて見応えがあった.
例えば赤瀬川原平は,今のユルい作風とは違ってみっちり描き込まれた作品が多く,当時も感じたことだが,つげ義春のタッチに非常に近い――と言うか,意図的に似せていた節がある.つげ以外の作家――漫画家が多い――の絵を模倣した作品も多数あり,いずれも本物そっくり.「偽千円札事件」関係の作品群――検察の押収品だったことを示す札を付けたまま展示――や,「少女仮面」の公演ポスターなど,初めて見る作品も多く,楽しめた.
木村恒久はジョン・ハートフォードに連なるフォトモンタージュの作家だから別として――この人が現代の視覚作品全般に与えた影響は甚大だと思うが――他の7人の「画家」たちの共通点は,描線が綺麗なこと,細部の描写が緻密なこと,レタリングが巧みなことだろう.「絵画は終わった」と言われた時代に,具象画を描き続けたのは反時代的である――日本の土俗的なイコンを積極的に取り込んだこともそれに拍車をかけている――と言えるが,当時としてはそれがむしろ「前衛的」と見なされたというのが,逆説的で面白い.
[映画の友]
×ジョエル・コーエン+イーサン・コーエン『バーン・アフター・リーディング』(2008 米)
『グラン・トリノ』を観る積もりだったのに映画館を間違え,時間が無かったので代わりに観てしまった.
登場人物が悉く愚か者なのはいいとしても,それを上から目線で撮ってる感じが何とも不愉快.やはりコーエン兄弟は好きになれん.
ダーク・コメディのつもりで作ったのだろうが,それにしてもこれだけ学ぶ所のない映画も珍しく,良かったのはエンド・ロールでファッグスの "CIA Man" が流れたことぐらい.
○ウォルター・サレス『モーターサイクル・ダイアリーズ』(2004 英米合作)
積ん見(そんな言葉はない)にしてたDVDをやっと鑑賞.
23歳のエルネスト・ゲバラが,親友アルベルトと二人,オンボロバイクで無謀な南米縦断の旅(アルゼンチンから北上)をする青春ロードムーヴィ.
資本家に虐げられ,土地を追われた先住民や,炭鉱労働者,放浪者たちとの出逢いが,軽い気持ちで旅に出たゲバラの思想に大きな変化をもたらし,後の革命家の誕生を準備する...という「物語」だが,疑似ノンフィクションタッチで描かれたソダーバーグ『チェ 28歳の革命』―― ←これが詰まらなかったので第二部『チェ 39歳 別れの手紙』は結局未見――に較べて,映画として遙かに面白い.それにしてもゲバラさんて,何処へ行ってもモテモテだったのね...
○クリント・イーストウッド『グラン・トリノ』(2008 米)
イーストウッドの侠気があまりに格好いいので,物語のスケールの小ささやベタさは気にならない.
○アンドリュー・スタントン『ウォーリー』(2008 米)
△ジョン・ハラス+ジョイ・バチュラー『動物農場』(1954 英)
この粋な「アニメ」二本立てを上映したのは,今や貴重な洋画二番館 早稲田松竹.潰れないで続いて欲しい.
『ウォーリー』に描かれるテクノロジー+ノスタルジーは,現役のお子様たちよりも,1960年代以前生まれの(最早未来は過去にしかないと感じている)大人たちに対して痛切な訴求力がある――『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ! オトナ帝国の逆襲』(←こっちの方がより傑作)と同様に.監督は1965年生まれだそうだから,納得.本編に先駆けて上映される小品『マジシャン・プレスト』も楽しい.
ジョージ・オーウェル原作の『動物農場』は,普遍性を持つ諷刺映画で,製作当時としては画期的な水準のアニメなのだろうが,『ウォーリー』と較べるとどうしても見劣りする.
[気が付けば何か読んでる]
○根本敬『特殊まんが―前衛の―道』(東京キララ社 2009)
「◆著者略歴◆ 「この本、総て。」」ってとこが格好いい.
○同『真理先生』(青林工藝舎 2009)
第二章「小説」(と称した実話?)が特に面白い.
今年に入ってからの根本敬は,他にも『映像夜間中学講義録/イエスタデー・ネヴァー・ノウズ』というDVD付きの本(未購入)を上梓しているし,更に何冊か新刊を出すという,凄い勢いである.同業者のファン連中――みうらじゅんとかリリー・フランキーら――が盛り立てているようだ.
△宮部みゆき『名もなき毒』(幻冬舎 2006)
久し振りに宮部の現代小説を読む.2007年吉川英治文学賞受賞,週刊文春「ミステリーベスト10 2006」国内部門第1位だそうである.確かに心憎いほど達者で読み手を飽きさせない.
作品中何度か言及される「以前の事件」が気になって,それを描いた↓
△同『誰か』(文春文庫 2007.親本 実業之日本社 2003)
も,つい買ってしまう.どっちかと言えば『誰か』の方がより「心揺さぶる」出来.テーマ曲がひばりの「車屋さん」って所が個人的にはツボ.
だけど,ミステリが浴びせられてきた悪口を逆手に取って苦言を呈するならば,「人間は描かれているけれども,ミステリとしては余り面白くない」のだった.
△山本弘『神は沈黙せず 上下巻』(角川文庫 2006.親本 2003)
山本弘版「神狩り」.山田正紀と違って当然理数系である.凄い量の情報とアイディアが詰まっていて面白いし,結末は「感動的」ですらあるけれど,小説というよりプレゼンみたいな,あるいは,一見本気の討論に見えるが実は「立場」を演じているだけのディベートを見ているみたいな,要はテーマは壮大なのに安っぽく嘘臭い感じがして,あまり乗れなかった.
明石散人の鳥玄坊シリーズの読後感に近いものがあるけれど,あのシリーズと同様,どうせ大法螺吹くんだったらもう少し文章を何とかして欲しいと思う.漫画,いやむしろ,さいとうたかを風の古臭いSF劇画にした方が面白いかも知れない.
その他,諸星大二郎『闇の鶯』(講談社 2009.単行本未収録作品の寄せ集めだが統一感あり.○),奥泉光『バナールな事象』(集英社 1994.「ワープロ」で書くことが重要なモチーフになってる所が今読むと古臭い.通俗ミステリに書き換えると昔の折原一になる.△),三崎亜記『バスジャック』(集英社 2005.『となり町戦争』だけで終わらなかったのは喜ばしい.非日常においても主人公が破綻しない/死なないので安心して読めてしまう幻想小説.癒し系不条理は思考停止を促す危惧もある.△),武富健治『鈴木先生7』(双葉社 2009.どこまで続くこのハイテンション.○)等を読む.
2009.05.16 GESO