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記事No : 62
タイトル GESORTING 160 November Steps/Stops
投稿日: 2008/11/18(Tue) 00:36:54
投稿者geso

 9月はまる一箇月間職場のコンピュータシステムトラブルの修復に掛かりきりで,殆ど本を読む余裕がなかった.
 10月初めに何とか問題が解決したので,以降,反動的に読みまくってたら,もう11月も半ばを過ぎたのね...
 ここ一月半ぶんの覚書き.

 近頃の長い小説が読みたい! 池上永一『テンペスト』上下巻,古川日出男『聖家族』,舞城王太郎『ディスコ探偵水曜日』上下巻あたりを片っ端から...と思ったものの,これらは読みたい本ではあっても所有したい本ではないので,図書館で借りて済まそうと思い調べたところ,いつ借りられるか分からないということが分かったから――例えば文京区立図書館では『テンペスト』の予約待ちが171人もいる――やっぱり買ってしまうかも知れない,いずれ.

 で,差し当たり購入して読んだ長めの小説.

△山田正紀『神獣聖戦 Perfect Edition』上下巻(徳間書店 2008)
 やっとこさ出たのは嬉しいけれど,待ちすぎた僕はとても疲れてしまった.
 前提を共有し得れば複数の作家による競作も可能な開けた作品世界――クトゥルー神話みたいな――を目論んだ節もあるけど,前提の特殊性ゆえ原作者本人しか参加できない山田印SFとして閉じており,「全ての読書人はその挑戦を受けよ!」(押井守による上巻腰巻き惹句)と言えるほど万人向けの内容にはなってないし,原型となった徳間ノベルズ版(全3巻)の方では「つかみOK!」だったのに,敢えて順番を変えてキャッチーなエピソードを下巻に持って行っちゃってるし... 正紀様も版元も商売が下手だと思う.妄想の強靭さは本物だけど,全体としてこの構成で果たして良かったのか,疑問が残る.
 でも,こんな瑕のある歪んだ真珠のような作品でも,嫌いになれないのがファンの性.
 因みに「ファン」とは,対象の欠点を欠点として認めつつも敬愛する人種であり,対象に欠点が存在すること自体を認めようとしない人種のことは「信者」と呼ぶ(←俺の定義).
 個人的には,「怪物の消えた海」なら萩尾望都,「交差点の恋人」なら諸星大二郎,「硫黄の底」なら(黒田硫黄じゃなく)松本零士がいいななどと,エピソードごとに「漫画化するなら誰が最適か」を絵面やコマ割りを妄想しつつ楽しむ仕方で読了.

△伊坂幸太郎『モダンタイムス』(講談社 2008)
 21世紀後半の日本――現代と地続きな感じ――を舞台に,正体が掴めない「監視国家=システム」と闘わざるを得なくなった連中を描くオフビート・スリラーで,『魔王』(講談社 2005)の続編.
 「続編」だってことは奥付にちょこっと書いてるだけで,読み始めるまで気付かなかった.独立した作品と思わせた方が売りやすいと考えたのかも知れないし,実際,正編を読んでなくても問題はないんだけど――でも『魔王』を先に読んでおくに越したことはない――何だか釈然としない.
 個人的には,テレビドラマ『プリズナーNo.6』(英BBC 1967→日NHK 1969)と,星新一がそれを「カフカの大衆娯楽版」(←うろ覚え)と評したことが思い出された.テレビ版をノベライズしたトマス・M・ディッシュの『プリズナー』(ハヤカワSFシリーズ 1969)がかなり娯楽性の乏しい作品だったことも,併せて.
 あと,全くの偶然ながら,作中に偽悪的/自虐的に戯画化された作者自身が登場し,無惨に殺されるところが『神獣聖戦』と共通してて,可笑しかった.

△紀田順一郎『古本屋探偵の事件簿』(創元推理文庫 2000.初版1991)
△同『古本街の殺人』(同 2000.初版1994.親本1989)(←こっちは短め)
 紀田の古本ミステリは前から読みたかったから,ブクォーフでどちらも105円だったのを機に購入したのが8月.積ん読だったのを,漸く読了.
 欲しい本のためなら人殺しも辞さない古書蒐集狂や,そこまで行かずとも「いっちゃってる」いかにも実在しそうな古書マニアが多数登場し,「こうはなりたくないものだ」と思わされる.鬼気迫りすぎてて,後味はあまりよろしくない.
 ミステリとしては今一つなるも,神田古本街事情が分かるところは面白い――と言っても二昔以上も前の話だから,様変わりもしている筈.
 例えば今の神保町では,顧客数は全体として減少の一途だけど女性客は逆に増えてる――喫煙者の比率と同傾向な点が面白い――とか,今まで漫画本を(馬鹿にして)置いてなかった店も(馬鹿にしてはいられなくなって)置くようになってきたとかいう話を聞くが,これらは明らかな変化と言えるだろう.

△ジョン・ダニング『死の蔵書』(ハヤカワ文庫 1996.原著 1992)
○同『幻の特装本』(同 1997.原書 1995)
 ダニングは前から読みたかったから,ブクォーフでどちらも105円だったのを機に購入.
 警官上がりの古書店主が主人公の古書ミステリシリーズの1作目と2作目――4作目まで出てる――で,米国古書業界事情が分かるところが面白い...と言っても一昔以上も前の話だから,様変わりしてるかも知れないが.
 日本の「せどり屋」に当たる「掘出し屋」(原語不明)の生態だとか,日本と同様「図書館派」と「古書店派」の間に隠微な敵対関係が存在することだとか,マニアックな情報が本筋よりも楽しかったりするのはまことにイカンに存じます.
 ネロ・ウルフ賞を受賞した1作目の方が評判良いみたいだけど,2作目の方がサスペンスフルで好み.
 両作品とも,S.キングを小馬鹿にしたような記述が散見するので,ファンはムカツクかも知れない.ファンじゃなくて良かった.

 因みに,古書を扱った小説で今までで一番面白かったのは,嚆矢と思われる梶山季之『せどり男爵数奇譚』だ.
 初版は1974年の桃源社版で,その後何度か他社から再版されているが,現在辛うじて絶版になっていない(らしいけど殆ど見掛けない)のは,2000年のちくま文庫版.
 俺は遅ればせながら1995年に夏目書房版で初めて読んだのだが,古書店主上がりの出久根達郎による解説も面白かった(←この人の小説はどうも性に合わないんだけど).ハードカバーの小説で解説付き,というのも珍しかった――あ,この度の『神獣聖戦』もそうでした(下巻解説 森下一仁).

△久坂部羊『無痛』(幻冬舎文庫 2008.親本 2006)
 医療ミステリ――と言っていいのかどうか――第3弾.例によってグロい描写が多いので生理的嫌悪感を催す読者もいるだろうが,核となるのは刑法第39条,医療格差といったシリアスな問題であり,鬼面人を威すつもりで書かれた訳ではない(と思う).かと言って,中条省平の解説文ほどに深い内容とも思えないが,結構楽しめた.
 登場するキャラの一人は首藤瓜於『脳男』(講談社 2000)を想起させるし,「続く」で終わって肩透かしを食わせるところも『脳男』に似ている――因みに久坂部の最新作『まず石を投げよ』(朝日新聞出版)は,本作の続編ではないらしい.
 本作の短所を挙げるなら,特異な人物――外見だけで患者の病気が分かる医師だとか,先天性無痛症患者だとか――や個性的な人物が大勢登場するにも拘わらず,彼らの物語上の「役割」が一様に類型に留まっている点だと思う.

 あとは,大して長くない小説と漫画を濫読.新刊以外は主としてブクォーフで入手.

△土屋隆夫『針の誘い』(角川文庫 1996.親本1977)
△平石貴樹『笑ってジグソー、殺してパズル』(創元推理文庫 2002.親本1984)
○吉田秋生『海街diary2 真昼の月』(2008 小学館)
△今市子『百鬼夜行抄 17』(2008 ソノラマコミックス)
 この辺はダダダダーと一気に読了.吉田秋生のはシリーズもののホームドラマだけど,たまにはこういうのを読んで心を洗いたい... 前は何の作品で洗ったんだっけ.

△我孫子武丸『弥勒の掌』(文藝春秋 2005)
 サプライズ・エンディングという点では傑作『殺戮にいたる病』(講談社ノベルス 1996)には及ばないが,結末のダークさには意表を突かれた.我孫子さんて,意外に鬼畜.

○泡坂妻夫『蔭桔梗』(新潮社 1990)
 直木賞受賞の表題作を含む短編集.地味だけど滋味豊か.本作のような泡坂の非ミステリ系作品には,ある程度年を拾わないと分からない良さがあると,年を取って来て思う.

○広瀬正『ツィス』(集英社文庫 2008.初版1982.親本1971)
 新装版が早くもブクォーフ落ち.何と言うか,寓話的な反-パニック小説? 単一アイディアでこれだけ読ませる長編を書けるってのは,やはり大した作家だったのかも.理工系で音楽にも詳しい(元バンドマン)というアドバンテージを大いに生かした作品で,落ちも効いている.解説の司馬遼太郎が広瀬を絶賛し,本気でその死を惜しんでいるところが意外で,感慨深かった.司馬もその才を持っていたなら本当はSFを書きたかったのかも知れない.
 後で調べたところ,広瀬作品は三度直木賞候補に推され全て落選しているが,そのうち二度,選考委員のうち司馬のみが激賞して推し,他の委員が全て反対したというのは,有名な話らしい.司馬をちょっと見直したりして.

○関谷ひさし『侍っ子』(双葉社 2008)
 今年2月,80歳で逝去した関谷の遺作.70代の頃から発表のあてもなくコツコツ描き続け,2006年頃には完成していた長編明朗チャンバラ漫画.正直,物語や描き方には古臭さを感じざるを得ないけれど,瑞々しい「絵」の魅力がそれをカバーして余りある.70代でこんなシャープな線を描けたというだけでも驚異.余り目立った活動はしていなかったが生涯現役だったそうで,本書刊行前に亡くなったのは気の毒である.往年の「ストップ!にいちゃん」ファンなら,涙なくしては読めない.

△フレドリック・ブラウン『まっ白な嘘』(創元推理文庫 1987.初版 1962.原著 1953)
 小学生の頃立ち読みで済ませた本がブクォーフで105円で出てたので,懐かしくて購入.奥付を見ると,今回買ったのは36版.ロングセラーなんだなぁ... 1940年代に書かれた短編ミステリからのベストセレクションゆえ,古さを感じざるを得ない作品や,ひねた読者には落ちが読めてしまう作品もあるけれど,バラエティに富み,流石鬼才!と思わせる傑作も多い.こういうミステリ,SF系の古典も,新訳・新装版で出し直せば売れると思うんだけどなぁ...

 9巻まで読んで飽きて止めてた二ノ宮知子『のだめカンタービレ』(講談社コミックスkiss 2002〜)を1巻から読み返してみたら,ぎゃぼー,やっぱり面白いじゃないデスカ!ってことで,漫喫で最新21巻まで一気読み.絵柄――『平成よっぱらい研究所』時分とは全然違う――が石川優吾にちょっと似てるとか,ギャグのセンスが佐々木倫子に似てるとか,勝手に新発見する.でも,この流れで物語が進行し,のだめが千秋に追い付き追い越すような事態になったら,哀しい結末を迎えそうな気が...

 最近の嬉しい驚きは,諸星大二郎が『西遊妖猿伝 西域篇』を「モーニング」誌で連載開始したことだ.まだ始まったばかりで見せ場には至っていないが,是非完結まで書き継いで欲しいものである.
 『大唐篇』『河西回廊篇』の新装版単行本も講談社から順次刊行されるそうだから,潮出版社から版権を引き上げたということなのだろう.

 ところで,シリーズものを順番に読まないでも平気という人は意外にいるみたいで,驚かされる.俺は順番に読まないと気持ち悪いのだが...

 映画はちょっとしか観ていない.

△金子修介『デスノート』・『デスノート the Last name』(2006 日)(←前後編の形)
△中田秀夫『L change the WorLd』(2008 日)
 『デスノート』は原作未読だけど,松山ケンイチに興味があるのでDVDで観た.カメレオン俳優と言われるだけあって,確かに『DMC』の彼と同一人物とは思えない.藤原竜也との二枚看板だが,藤原を完全に食ってる――おいしい役ということもあるんだけど.
 そのスピンオフ作品『L』は松山主演で,藤原は全く出て来ない(ちょっと可哀想).地球を守るために無用の人間たちを削減しようとする過激な環境保護団体との闘いが描かれるが,同様のイデオロギーを奉ずる団体が実在する所が怖い.
 両作品とも,心配したほどひどい作品ではなかったのが幸い.

△ジュリー・テイモア『アクロス・ザ・ユニバース』(2007 米)
 映画館で鑑賞.ビートルズ楽曲のカバーだけで綴ったミュージカルって,既にあってもおかしくない気がするけど,これが初めてなのかな?
 実の父を訪ねて渡米した英国の青年が主人公だが,父親との再会は作品上大して重要ではなく,1960年代後半の英米の青春群像を描くことが主眼らしい.時代考証はユルい感じだが,まぁユルい映画ってことでオーケーか.
 登場人物名からして,主人公はジュード(ポール似)だし,他の役名もマックスだのルーシーだのプルーデンスだのジョジョみたいなのばかりだから,リアリズムを追究した作品じゃないことは確かである――そう言えば『幻の特装本』にもエリノア・リグビーという「少女」が重要な役柄で出て来たっけ.
 ビートルズ・ファンなら思わずニヤリとしそうな「くすぐり」が一杯仕掛けてあるようだが,生憎俺はファンじゃないので... でも,"Maxwell's silver hammer" をいかにも使いそうな場面を作っといて結局使わなかった「引っ掛け」は,ちょっと受けた.

△森田芳光『の・ようなもの』(1981 日)
 森田の劇場用映画監督デビュー作.「古典落語の修業に励む二ツ目の落語家とトルコ嬢、落研の女高生たちの青春群像を描く」.先日『しゃべれどもしゃべれども』を観たときに思い出したので,四半世紀ぶりにDVDで再観.
 森田の妙な間合い演出とそれに対応するカット割りは既に出来上がっている/記憶していたよりも落語のシーンが少ない/こんなエンディングだったっけ?/栃木弁丸出しの伊藤克信は最近余り見掛けないな/秋吉久美子は裸を出し惜しみすぎ...といった感想.

○ターセム『落下の王国』(2006 印英米合作)
 専ら映像技術にのみ感心した『ザ・セル』(2000 米)のターセムが監督・制作・脚本を担った作品なんで,スカしただけのものなのではという危惧があったが,予想に反してバランスの取れた良作だったので感心.
 同じ病院に怪我で入院中の,自殺願望に取り憑かれたスタントマンと林檎園で働くインド人の童女の交流(現実)と,スタントマンが童女にせがまれて騙り/語り聞かせる復讐の物語(空想)を重ね合わせて描くビター・ファンタジー.タイトル("The Fall")どおり,「落下」のモチーフが頻出する数々の幻想シーンは,世界中の奇観地でロケされたものらしいが,手間も金も膨大に掛かっただったろうなぁ...

 「小さくまとまってる」の反対語は何だろう? 「大きくばらけてる」あるいは「大きく壊れてる」か?
 いずれにせよ「小さくまとまってる」よりもそっちの方が面白そうだ.
 てなことを思ったのは,MTVの特集で初めてレイディオヘッドを聴いて「小さくまとまってるな」と感じたとき.
 何で今更初めて聴いたんだろうとも考えたが,俺にとっては参考のために音楽を聴くという習慣ないし義務をなくした後に現れたバンドだから,なのだろう.

2008.11.18 GESO


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