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記事No : 39
タイトル GESORTING 156 立ちつ座りつ
投稿日: 2008/07/15(Tue) 23:25:52
投稿者geso

 ギラギラ晴れて暑いかジトジト雨で蒸すか,どっちに転んでも不快な毎日である.仕事は先行きが見えず身体はだるい.
 こんなときは,楽しい本や映画で現実逃避ですよ.

○武田邦彦『偽善エコロジー』(幻冬舎新書 2008)
 と言ってるそばから全然現実逃避できない本を読んでしまった.
 「マイ箸を使ってるから私はエコ」と勘違い/思考停止してるような方々こそ本書を読んで目を開き,本当のことを言い続けてるばかりに煙たがられ中傷されている著者を支援すべし.
 以下,裏表紙の惹句をまんま引用.
 「いわゆる「地球に優しい生活」は、じつは消費者にとって無駄でしかない。「レジ袋をやめエコバッグにすると、かえって石油の消費が増える」「冷房を28℃に設定しても温暖化は止められない」「多額の税金と手間をかけて分別したゴミ、そのほとんどが焼却される」「リサイクル料を業者に払った廃家電は、違法に中古で売られている」……かようにエコ生活は、環境を悪化させ、企業を太らせ、国や自治体の利権の温床となっている。「何が本当のエコか」がわかる環境問題の新しい教科書。」

 原宏一の最新作ということになっている『ダイナマイト・ツアーズ』(祥伝社文庫 2008)は,結局『爆破屋』(小学館 2001.同文庫 2003年)の改題/改稿版だったので,ちょっとがっかり.
 いや,作品自体は良いんだけど,本当の新作じゃなかったのと,改題自体がつまらなかったのが残念だったってこと.
 原はコピーライター出身らしいが――その前はプロミュージシャンで,坂本龍一らと共に大貫妙子のバックでギターを弾いたこともあるそうだ――標題は元の『爆破屋』の方がいいと思わなかったのだろうか? 変えたのは何か問題があったからか?
 そう言えば,初版の最後のページに載ってた9.11に関する言及もカットされちゃってたが...
 ハリウッドで映画化するとしたら――すればいいと思う,マジに――タイトルは原題直訳の "The Exploders" で決まりだと思う.

 さて,個人的にきてるジョナサン・キャロル.読んだ順に.
△『蜂の巣にキス』(創元推理文庫 2006.原著1998)
 長編9作目にして,初の一般ミステリ.
 強烈キャラが多数登場し「取り返しの付かない失敗と,止むことのない悔恨の繰り返しを生きる者たち」(本書煽り文句より)――つまり読者=儂等のことだ――の傷口に塩を擦り込む作法は今までと同様だが,超常現象が全く出て来ない所が少々物足りないので,初めてキャロルを読む方にはお薦めしない.
 本作は新シリーズの1作目で,今回重要な役割を演じた脇役が再び登場する10作目『薪の結婚』(積ん読)は従来のタッチに戻ってるらしい.そっちに期待.

○『パニックの手』(創元推理文庫 2006.原著1996)
△『黒いカクテル』(創元推理文庫 2006.原著1996)
 欧米では一巻もの/日本では二分冊で刊行された,唯一の中短編集.
 一巻に纏まっていたらかなりヘヴィーでお腹一杯になってただろうから,小食な日本人にはこれで良かったのかも.
 偶々だろうが『パニックの手』の方が粒揃いという印象がある.これには『空に浮かぶ子供』の作中作2編が採録されているが,いずれも単独で読んでも傑作.
 解説は前者が(前に書いた)津原泰水,後者が桜庭一樹で,いずれも少女小説出身/佐々木丸美ファンという点でも共通している.

◎『我らが影の声』(創元推理文庫 1991.原著1983)
 長編第2作で,ノンシリーズ作品.執拗な亡霊に追い回される作家が主人公.
 物語的に破綻しているかのような部分も含め非常に悪夢的で,胸苦しくなる.
 この嫌〜な感じ+結末の容赦の無さが,癖になるのだな.キャロルファンはMか?――多分そうだ.

◎『炎の眠り』(創元推理文庫 1990.原著1988)
 怒濤の勢いで集めたキャロル本だが,長編4作目の本作のみ未入手――アマゾンには出てるけど,適価とは言えぬため未購入.
 でも『月の骨』シリーズ2作目で,早めに読みたかったんで,中野中央図書館にて読了.
 (本当は恐ろしい)グリム童話がモチーフだが,キャロル作品の中では比較的本来の「ダーク・ファンタジー」枠に収まりやすいかも.
 キャロルはロックファンらしく,ちょくちょくバンドの固有名詞が出て来るが,本作ではオインゴ・ボインゴが――ラブシーンのBGMで!――出て来たりする.

△『沈黙のあと』(創元推理文庫 1997.原著1992)
 長編第7作.幸福の頂点から不幸のどん底へと落ちていく(疑似)家族の崩壊劇.
 物語の3/4までは想定内の展開だが,残りの展開には,本作だけでは納得できない不可解さが残る.
 『天使の牙から』に繋がる『月の骨』シリーズ5作目だということを後で知って納得できたが,単独作としてはやや不親切かも.よって,本作も初心者には薦めない.

○『空に浮かぶ子供』(創元推理文庫 1990.原著1989)
 長編5作目にして『月の骨』シリーズ3作目.
 読み出してから『天使の牙から』にリンクする作品であることに気付いた.
 つまり,『天使の牙から』も『月の骨』シリーズに属する作品だったということで,順番にこだわって読むつもりだったのに失敗した訳.
 「映っている筈のないものが映っているビデオカセット」が重要な役割を占めている点で鈴木光司『リング』(1993)を連想せずにはいられないが,まぁ偶然の一致でしょうね?

○『犬博物館の外で』(創元推理文庫 1992.原著1991)
 長編第6作にしてシリーズ4作目ということになる.
 本作でもまた悲惨な事件は山ほど起こるけれど,冒険小説っぽい点とユーモラスな点が異色で,他の作品よりは後味が良い.
 キャロルで唯一気に食わない点は,彼が歴然とした「犬派」で,猫を馬鹿にしているところだ――許すけど.

 で,今は積ん読してた最新訳『薪の結婚』を読み始めたところ.これを読了すれば邦訳はおしまいなので,淋しい.
 未訳は3冊あるが,そのうち1冊が訳出されるのは早くても来年中と思われる.
 それまでは,旧作をおさらいしよう.

△蒼井上鷹『まだ殺してやらない』(講談社ノベルス 2008)
 期待の俊英の最新長編だが,今回はお話に無理が目立って,今イチ.ネットに上げられた「真の解決編」も,今一つ面白くない.

△氷川透『人魚とミノタウロス』(講談社ノベルス 2002)
 この手の新本格派の「美しい論理」は嫌いじゃないし,決して出来の悪い作品とは思わないけれど,文章がちょっとひどくて... 気の利いた文章のつもりで得々と書いてるが,実際は冗長な自意識過剰文なので,ウザい/イラッとする.法月綸太郎とか東川篤哉の文章にも同種の苛立ちを覚えるのだが...

○長崎俊一『西の魔女が死んだ』(2008)
 梨木香歩作品の初映画化とあっては行かない訳にいかず観に行ったところ,何年か後にもう一度観たくなりそうな素直に「良い」と言える作品であった.
 かなり原作に忠実だが,結構重要な銀龍草のエピソードがカットされていたことと,原作にはない地元の郵便配達父子が登場する点が異なる.
 だが,この相違が無かったら,単に原作をなぞっただけの作品に終わっていたかも知れない.
 銀龍草のエピソードをカットした理由は,恐らくそれを入れるとSFXやVFXを使わざるを得なかったからではないか.本作は最近の映画としては珍しく,特撮を可能な限り使わないで――使うことによって安っぽいファンタジーに堕することを極力避けて――作られたものと思われる.
 また,郵便配達父子のエピソードは,元より登場人物が少ない作品が密室劇ふうに閉じることを避けるための工夫であり,世間への窓として設けられたものであろう.
 シャーリー・マクレーンの娘だという「西の魔女」役のサチ・パーカーは,何かの映画で観たことはあるかも知れないが全く記憶に残っていない女優で,日本映画に出るのも主演するのも初めてというが,「日本人よりも日本人みたいな」――郵便配達夫を登場させたのは,彼にこの台詞を言わせたかったからでもあるのだろう――自称「オールド・ファッション」な英国生まれの老女を,ごく自然に演じていた.日本人でこの雰囲気に近い女優といえば岸田今日子ぐらい――つまり,現存する女優にはいない.
 原作との比較で注目していたのは,魔女の笑い方が「(にっこりではなく)にやり」であるかどうかと,ちゃんと煙草を吸うかどうかの二点だったが,前者は「にっこりとにやりの中間ぐらい」,後者は「原作より少ないが(一回だけ)吸った」ので,良しとしたい.
 まい役の高橋真悠は可愛いし巧かったので,文句ありません.

2008.07.15 GESO


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