記事No | : 125 |
タイトル | : GESORTING 205 その後の不規則備忘録(1/2) |
投稿日 | : 2023/01/20(Fri) 19:20:17 |
投稿者 | : あかなるむ |
本(マンガと雑誌に漏れあり)
2017
○清水潔『桶川ストーカー殺人事件』(新潮文庫 2004.親本 2000)
『殺人犯はそこにいる』は凄かったがこれもなかなか凄まじいドキュメンタリー.ジャーナリストたる者義憤を持つべしと思わされる.
○上野顕太郎『夜の眼は千でございます』(KADOKAWA 2016)
画力の無駄遣いを誇るギャグマンガ家ウエケンの「夜千」シリーズ第5弾.取り分け水木しげると望月三起也各追悼編の絵柄の模写ぶりが素晴らしい.
○東海林さだお『東海林さだお自選ショージ君の漫画文庫傑作選』(文藝春秋 2003)
「週刊漫画TIMES」に1967〜1978年に連載された1編7ページのシリーズから厳選した100編.久しぶりに読むショージマンガはやはり面白い.エロも不条理もブラックも出てくるが今なら問題になりそうな差別ネタもかなりある.古さを感じさせないものが多いが中にはもはや通じそうにない時事ネタもあるので初出データと事件年表を付けて欲しかった.中条省平による「何も足せない、何も引けない」と題された解説の結び「ショージ漫画は、ドーダとグヤジイの落差を笑うちょっといじわるな笑いのなかから、かならずほろ苦いアワレを感じさせる、その懐の深さがなんともすばらしいと思うのです。」に同感.
○岸本佐知子編訳『居心地の悪い部屋』(角川書店 2012)
ブライアン・エヴンソンやルイス・アルベルト・ウレア等英語圏の知られざる作家計11人による12の短編小説を収めたアンソロジー.かつて「奇妙な味の小説」と呼ばれていた作品に近い.
△やまあき道屯『x細胞は深く息をする』(サンクチュアリ出版 2010)
医療系感動ポルノと言ったらあんまりか?
○清水潔『「南京事件」を調査せよ』(文藝春秋 2016)
NNNドキュメント「南京事件兵士たちの遺言」に旅順での追加取材報告を加えた(小説よりも劇的な)調査記録.筆者にとっては取材旅行であると同時に日清・日露戦争に出兵していた著者の祖父の過去を初めて知る旅でもあった.「じいさん、あんたそれで良かったのか?」
○神谷一心『たとえ、世界に背いても』(講談社 2015)
○清水潔『騙されてたまるか調査報道の裏側』(新潮新書 2015)
○鹿子裕文『へろへろ』(ナナロク社 2015)
無茶苦茶面白くかつ真面目な老人介護施設ドキュメンタリー.同著者編集による本書関連雑誌「ヨレヨレ」は売切れで第2号しか入手できず.
○佐藤正午『ジャンプ』(光文社 2000)
○同『女について』(光文社文庫 2001.『恋売ります』講談社文庫 1991 改題)
△岡田屋鉄蔵『ひらひら国芳一門浮世譚』(太田出版 2011)
○伊坂幸太郎『火星に住むつもりかい?』(光文社 2015)
○まんしゅうきつこ『アル中ワンダーランド』(扶桑社 2015)
○小林泰三『アリス殺し』(東京創元社 2013)
○佐藤正午『アンダーリポート/ブルー』(小学館文庫 2015.親本 集英社『『アンダーリポート』 207+小学館『正午派』 2009より「ブルー」)
○伊坂幸太郎『残り全部バケーション』(集英社文庫 2015.親本 2012)
△海堂尊『カレイドスコープの箱庭』(宝島社 2014)
海堂は作品に出来不出来はあるけれど旗幟鮮明で己の信ずることを発信し続けているところは偉い――大概の小説家にとってタブーと思われる本屋大賞批判を唯一人公にしている.
○酉島伝法『皆勤の徒』(東京創元社 2013)
表題作は「生物都市」を想起させるぐちゃぐちゃぬとぬとな超未来世界を舞台にしたサラリー<ポストヒュー>マン小説(何のこっちゃ).
○山田参助『あれよ星屑6』(KADOKAWA 2017)
○うめざわしゅん『パンティストッキングのような空の下』(太田出版 2015)
傑作アウトテイク集.(本作を皮切りにうめざわ本を収集完了.)
○長岡弘樹『教場』(小学館 2013)
○同『教場2』(小学館 2016)
○吉田秋生『海街diary8』(小学館 2017)
○北原尚彦『死美人辻馬車』(講談社文庫 2010)
○諸星大二郎『暗黒神話完全版』(集英社 2017)
祖父江さん! 立派な装幀ですがとても読みにくいです……
○同『BOX2』(講談社 2017)
○中川ホメオパシー『干支天使チアラット2』(リイド社 2017)
鬼畜系アシッドギャグマンガの第一人者.
○同『抱かれたい道場』(秋田書店 2012)
○田中圭一『うつヌケ』(角川書店 2017)
圭一作品はエロとシリアスの振れ幅を含めて面白いが本人がときどきウヨっぽくなるのが玉に瑕.
○梨木香歩『ピスタチオ』(ちくま文庫 2014.親本 2010)
△桜庭一樹『ばらばら死体の夜』(集英社 2011)
○業田良家『機械仕掛けの愛3』(小学館ビッグコミックス 2015)
○ふみふみこ『女の穴』(徳間書店 2011)
○皆川博子『妖恋』(PHP研究所 1997)
○武田一義『さよならタマちゃん』(講談社イブニングKC 2013)
△北村薫『街の灯』(文藝春秋 2003)
この人や芦辺拓は優等生的なミステリ作家という感じで作品は端正だけど凄みがない点が物足りない.でも昭和初期の上流階級を舞台にしたこのシリーズは三部作で完結済みだそうなので続きの2作も読んでみたい.
○松本次郎『ウエンディ』(太田出版 2000)
破綻してるけど愛おしい作品.
○デイヴィッド・ゴードン『二流小説家』(早川ポケットミステリ 2011)
○伊坂幸太郎『首折り男のための協奏曲』(新潮社 2014)
○皆川博子『猫舌男爵』(ハヤカワ文庫 2014.親本 講談社 2004)
○宮木あや子『官能と少女』(ハヤカワ文庫JA 2016.親本 2012)
○瀬川深『SOY!大いなる豆の物語』(筑摩書房 2015)
○奥浩哉『いぬやしき』1〜9(講談社イブニングKC 2014〜2017)
藤子・F・不二雄『中年スーパーマン左江内氏』のハードコア版.あと1巻で完結.結末は意外に穏当になりそうなところが良いんだか悪いんだか.
○山上たつひこ・いがらしみきお『羊の木』全5巻(講談社イブニングKC 2011〜2014)
山上原作+いがらし作画というコラボは成功.全編に漂う息苦しい不穏さが堪らん.各巻のオマケに対談や山上書き下ろし小説が収められているのもイーネ.来年映画化されるそうだけど予告HPによれば設定がだいぶ改変されていることが分かる.吉田八大監督だからそれほど酷いものにはならないだろうけど無難な作品に落ち着かなければよいが.
○野田サトル『ゴールデンカムイ』1〜8(ヤングジャンプコミックス 2015〜2016)
不死身の杉元・アシリパ・レタラ.変態ギャグ要素あり.
○北原尚彦『首吊少女亭』(角川ホラー文庫 2010.親本 出版芸術社 2007)
△古野まほろ『群衆リドル』(光文社2010)
△同『命に三つの鐘が鳴るWの悲劇'75』(光文社 2011)
○三部けい『僕だけがいない街1〜9』(KADOKAWA 2013〜2017)
○松田洋子『大人スキップ1』(KADOKAWA 2017)
○山田正紀『ここから先は何もない』(河出書房新社 2017)
○沙村広明『波よ聞いてくれ1〜2』(アフタヌーンKC 2015〜2016)
○松岡圭祐『探偵の探偵T〜W』(講談社文庫 2014〜2015)
ベストセラー作家ということで敬遠していたが初めて読んだら凄く面白かった.松岡の中でも異色作品らしいが画期的アイディアに基づくミステリ(というよりハードボイルド)で感心.笑わないヒロインの造形は私のイメージではどう考えても往年の梶芽衣子(年齢的には「さそり」以前――「野良猫ロック」の頃)であって少なくとも北川景子ではない.
○佐藤亜紀『スウィングしなけりゃ意味がない』(KADOKAWA 2017)
作者は性格は悪いが小説は巧い.同じ佐藤で歴史小説でも佐藤賢一の書割りみたいなものとはダンチ.
○三上延『ビブリア古書堂の事件手帖7〜栞子さんと果てない舞台〜』(メディアワークス文庫 2017)
○大沼紀子『真夜中のパン屋さん午前4時の共犯者』(ポプラ文庫 2016)
○同『真夜中のパン屋さん午前5時の朝告鳥』(ポプラ文庫 2017)
○松岡圭祐『探偵の鑑定T』(講談社文庫 2016)
○同『探偵の鑑定U』(講談社文庫 2016)
△峰なゆか『アラサーちゃん無修正5』(扶桑社 2017)
「マンガ覚書」に採り上げようと思って揃えてしまったが未だ書いていない.
○皆川博子『トマト・ゲーム』(ハヤカワ文庫JA 2015.親本 講談社 1974・講談社文庫 1981)
○同『伯林蝋人形館』(文春文庫 2009.親本 2006)
1920年代のドイツを中心舞台にした凝りに凝った歴史(幻想)小説.蓮實門下の瀬川裕司という独文学者兼映画研究家が「きわめて無粋な作業であるとは承知しながらも」詳細な年表付き解説を書いているがそういう作業をしたくなる気持ちは理解できる.
○伊坂幸太郎『陽気なギャングは三つ数えろ』(祥伝社ノン・ノベル 2015)
シリーズ3作目.悪くはないがやはり1作目が一番面白かったな.
△清野とおる『東京都北区赤羽以外の話』(講談社 2012)
○皆川博子『蝶』(文春文庫 2008.親本 2005)
○渋谷直角『カフェでよくかかっているJ-POPのボサノヴァカバーを歌う女の一生』(扶桑社 2013)
○皆川博子『鎖と罠』(中公文庫 2017.親本『水底の祭り』(文藝春秋 1973)+『悦楽園』(出版芸術社 1994))
○同『倒立する塔の殺人』(PHP文芸文庫 2011.親本 理論社 2007)
皆川作品を全部揃えるのは大変なので諦めてボチボチ読むしかない.基本ハズレなし.
○矢部宏治『知ってはいけない隠された日本支配の構造』(講談社現代新書 2017)
一連の旧著のダイジェスト版で「寸止め感」はあるが書かれている範囲においては「事実」なのでケーモーのため人に勧めたい本ではある.
○上野顕太カ『いちマルはち』(KADOKAWA電撃コミックス 2014)
△伊藤計劃×円城塔『屍者の帝国』(河出文庫 2014.親本 2012)
○津原泰水『11』(河出書房新社 2011)
巧いのに売れない津原.応援したい.
○多田裕美子『山谷ヤマの男』(筑摩書房 2016)
「いい顔のオヤジ」の写真+エッセイ集.
△望月諒子『田崎教授の死を巡る桜子准教授の考察』(集英社文庫 2014)
○バラク・クシュナー『思想戦大日本帝国のプロパガンダ』(明石書房 2016)
「第五章三つ巴の攻防」が特に興味深い.
○辻田真佐憲『たのしいプロパガンダ』(イースト・プレス イースト新書Q 2015)
○泡坂妻夫『湖底のまつり』(創元推理文庫 1994.親本 幻影城ノベルス 1978 再購入)
泡坂本を殆ど売り払ったことを後悔している.
△結城充孝『アルゴリズム・キル』(光文社 2016)
クロハシリーズ4作目.タイトルが意味不明.
○伊坂幸太郎『マリアビートル』(角川文庫 2013.親本 2010)
○渋澤龍彦『都心ノ病院ニテ幻覚ヲ見タルコト』(立風書房1990)
△古野まほろ『身元不明』(講談社2015)
見立て殺人を取り扱った警察小説.京極夏彦だったらこの3倍の長さにしたと思う.
△相原コージ・竹熊健太郎『サルまん2.0』(小学館クリエイティブ 2017)
A5判は小さくて読みづらい.B5判にするのは無理だったのか.
○松田洋子『大人スキップ2』(KADOKAWA 2017)
○矢部太郎『大家さんと僕』(新潮社 2017)
初めて描いたマンガとは思えない.プロ作家たちが嫉妬するのも分かる.
○知念実希人『仮面病棟』(実業之日本社 2014)
×松岡正剛『知の編集術』(講談社現代新書 2000)
著者によれば文章や映像のみならずそれこそ「知」だろうと「思想」だろうとあらゆるものは編集可能である.正確に言えばあらゆる「情報」がである.だが情報とは既に編集された事実群であるからそれを編集するという行為は再(再々・再々々……)編集あるいは二次(三次・四次……)加工にほかならない.著者はそんなことは承知で言ってる筈でつまりは確信犯的に「編集」の価値を売り込んでいるのであり本書は「知」を情報として加工し「新しさ」という価値を付加して売るためのノウハウ本である.別に二次(三次……)加工や二次……創作自体が悪いわけではない.いかなる創作も先人の模倣や影響から始まるしかないし情報は蓄積され続けるので時代を下るほど独創性が薄まるのも自明だ.それでも――単なる剽窃でない限りは――作者が違えば作品も全部違い個別の価値を持つ.編集は慥かに重要だが素材を並べ立てる手段にすぎない.それを創作よりも上位に置く広告屋の発想が嫌らしい.松岡正剛は糸井重里と大差ない.
2018(途中まで)
○知念実希人『時限病棟』(実業之日本社文庫 2016)
○松岡圭祐『シャーロック・ホームズ対伊藤博文』(講談社文庫 2017)
△寺山修司『不思議図書館』(角川文庫 1984.親本 1981)
○吾妻ひでお『うつうつひでお日記その後』(角川書店 2008)
○同『地を這う魚ひでおの青春日記』(角川書店 2009)
○同『ひみつのひでお日記』(角川書店 2014)
○いましろたかし『ラララ劇場』(エンターブレイン 2005)
○同『引き潮』(エンターブレイン 2010)
○益田ミリ『僕の姉ちゃん』(マガジンハウス)
○豊田徹也『ゴーグル』(講談社アフタヌーンKCDX 2012)
△有栖川有栖『有栖の乱読』(メディアファクトリー 1998)
△ドストエフスキー・亀山郁夫訳『カラマーゾフの兄弟全5巻』(光文社古典新訳文庫 2006〜2007)
誤訳で名高い亀山版を買ってしまった.機会があれば米山正夫版で読み直そう.
○高野史緒『カラマーゾフの妹』(講談社文庫 2014.親本2012)
『カラマーゾフの兄弟』よりも面白いくらいだが原典を読んでおく必要はある.
△上野顕太カ『夜は千の眼を持つ』(エンターブレイン)
?亀山郁夫『新カラマーゾフの兄弟』上下巻(2015)
怪作としか言いようがない.主要な舞台の一つが1995年当時の東京で耳に馴染んだ固有名詞が頻出するので妙に生々しい.野方の「文化マーケット通り」や今は無き「長崎屋」高円寺の「オリンピック」や中野の「島忠」等が出てくる.ちなみに「目から火が出そうなほどの恥ずかしさ」という大学人とは思えない恥ずかしい誤記あり(下巻p.55)――校閲で気付かなかったのか?
○井浦秀夫『刑事ゆがみ』1〜4(2016〜2018 連載中)
○都留泰作『ムシヌユン』5〜6(2017〜2018 完結)
好き嫌いは完全に分かれるようだ.私は好きだが周りの人は大概嫌そうな顔をする.
○都筑道夫『未来警察殺人課完全版』(2014)
○上野顕太カ『帽子男』(2009)
○同『星降る夜は千の眼を持つ』(2007)
○烏賀陽弘道『フェイクニュースの見分け方』(2017)
怪しい点:著者はCRSでのインターン勤務経験あり・CIAのダーク面を無視・日本会議に所属する国会議員の比率は低いと言うが具体的な数字や他の団体への参加率との比較を示さない・陰謀論という用語自体がCIAの発案であることとその事実が公開されていることに触れていないetc.
△上野顕太カ『夜は千の眼を持つ』(2006)
○同『明日の夜は千の眼を持つ』(2011)
○同『50,000節』(2009)
○小野不由美『黒祠の島』(2003 再購入)
これも売り払わなければよかった.
○深木章子『鬼畜の家』(講談社文庫 2014.親本 2011)
○山田参助『あれよ星屑(7)』(KADOKAWA 2018)
悲痛な終わり方だがこれで正解.
×円城塔『Self-ReferenceENGINE』(ハヤカワ文庫 2010.親本 2007)
比喩表現に抵抗感があって読めない.
○ねこまき『ねことじいちゃん3』(KADOKAWA 2017
○赤瀬川原平『もったいない話です』(筑摩書房 2007)
○津原泰水『ヒッキーヒッキーシェイク』(幻冬舎 2016)
○同『エスカルゴ兄弟』(KADOKAWA 2016)
エンタメに振り切った津原.キャラを立たせつつ物語を収束させないのはラノベに終わらせないための確信犯的行為か?
△『徳川夢声の小説と漫談これ一冊で』(清流出版 2009)
本書所収の「蛞蝓大艦隊」という短編に落語家(志ん生がモデル)の女房のこんな台詞が出てくる.「お前は田舎者だから、蛞蝓なんぞ親戚交際(づきあい)だろうが、斯う見えても俺は江戸っ児だからな、いきなりヌルッと来たにゃ、まさにタマゲたよ」.なるほど当時は東京の女性も一人称に「俺」を使っていたのだな.
○山田参助『ニッポン夜枕話』(リイド社 2018)
時代設定は江戸でギャグは昭和〜今ふうのアッケラカンとした艶笑漫画.小島功や小島剛夕のパロディーも出てくるが描線の色っぽさが先達に及んでいないところは残念.
○池谷裕二『進化しすぎた脳』(講談社ブルーバックス 2007.親本 朝日出版社 2004)
○同『単純な脳、複雑な「私」』(講談社ブルーバックス 2013.親本 朝日出版社 2009)
脳と体の精密さといい加減さに今更ながら驚かされる.幽体離脱を生じさせる脳部位(角回)の話など非常に面白い.養老孟司よりも科学者らしい.講義が抜群に上手い.
△竹本健治『闇のなかの赤い馬』(講談社ミステリーランド 2004)
○連城三紀彦『悲体』(幻戯書房 2018)
初単行本化.いつものミステリあるいは恋愛小説を期待した読者は落胆するであろう純文学寄りの作品で身辺の事実がいかに虚構(小説)化されるかの実況報告にもなっている点で「実験作」.エンタメとは遠いけれど書かずにはいられなかった著者の切実さが感じられる.これで連城の未刊行長編は『虹のような黒』1作を残すのみ.この調子だといずれ出るのではと期待.長編以外では単行本未収録の短編も少なくとも26編あるのでそちらも纏めてほしい.
○高山羽根子『うどんキツネつきの』(創元SF文庫 2016.親本 2014)
△五木寛之作・伊坂芳太良画『奇妙な味の物語』(ポプラ社 2009.親本 1988)
五木のショートショート17編と伊坂の挿画の1969年一度限りのコラボ.五木は×伊坂は○で合わせて△.五木の小説の凡庸さ・捻りの無さは何なんだこれは.1970年42歳で早逝した伊坂の絵のためにだけ買う.
○貴志祐介『天使の囀り』(1998 再購入)
急に再読したくなり再購入.売らなきゃ良かった.貴志作品の中では一番好き.
△同『雀蜂』(角川ホラー文庫 2013)
筒井を思わせるが貴志作品としては不満な出来.角川ホラー文庫の中で長編にしては短い(中編に近い分量の)作品というのは作者を問わず手抜きと言わぬまでも書き飛ばしてる感がありハズレが多い気がする.山田正紀もそうだった――『ナース』『サブウェイ』『人間競馬』.
○岸本佐知子『気になる部分』(白水社uブックス 2006.親本 2000)
著者最初のエッセイ集.作者紹介に「あんな本を訳したのはやっぱりこんな人でした」とある(笑).いやあ変な人だ――でも「あるあるネタ」が随分あった.ということは私も変な人なのか?
○ベン・H・ウィンタース『地上最後の刑事』(ハヤカワ・ミステリ 2013.原著 2012)
○結城充考『駆体上の翼』(創元SF文庫 2016.親本 2013)
きっと本当はSFを書きたい人なのね.『プラ・バロック』と並んで好きな作品.ちなみに『プラ・バロック』は2015年にテレ朝が2時間ドラマ化しているので遅ればせながらネットで観たが出だしから「こりゃ駄目だ」と思って途中でやめた.クロハ役が杏ってのは特に悪くないが原作の「近未来感」が皆無の凡庸な女刑事ドラマに堕していた――予算もなかったのだろうが演出が凡庸.
○しちみ楼『ピーヨと魔法の果実』(リイドカフェ・コミックス 2018)
△古泉智浩『ワイルド・ナイツ1』(双葉社 2009)
△結城昌治『あるフィルムの背景』(ちくま文庫 2017)
○山田正紀『バットランド』(河出書房新社 2018)
△結城充考『クロム・ジョウ』(文藝春秋 2014)
○同『狼のようなイルマ』(祥伝社 2015)
イルマシリーズ1作目.作者曰く「バトルヒロイン警察小説」.お約束の展開なるもカッコイイ.惜しいのは3人の敵役のほうが主人公よりもキャラが立ってることとそれぞれの敵役の来歴に関する記述のバランスが悪いこと.また主人公の設定が類型的+感情移入しづらいこと.
○同『捜査一課殺人班イルマファイアスターター』(祥伝社 2017)
2作目の舞台は東京湾上の巨大なメタンガス掘削プラットフォーム.しかも台風の最中での連続爆破殺人という「孤島もの」のバリエーション.
○同『捜査一課殺人班イルマエクスプロード』(祥伝社 2017)
この人の単行本も全部揃ってしまった.
△山田正紀『クトゥルー短編集銀の弾丸』(創土社 2017)
クトゥルーは別に好きではないが正紀本はコンプリートしているので購入.
△堀川アサコ『幻想郵便局』(講談社文庫 2013.親本 2011)
△同『幻想映画館』(講談社文庫 2013.親本 2012)
△飴村行『爛れた闇の帝国』(角川書店2011)
△同『路地裏のヒミコ』(文藝春秋 2014)
飴村作品の中ではおとなしい出来.
○古野まほろ『ヒクイドリ』(幻冬舎 2015)
○山和雅『魂魄巡礼』(青林工藝舎 2016)
『奇想天覚』を拾い読みしたことしかなかったが本作を読んで感心.一見和風伝奇マンガで帯は「惑いの時代を生かされているわたしたち日本人の根源にふれる"たましい"の物語」という臭いコピーだがそれが「釣り」であることは読めば分かる.むしろオカルトや迷信の欺しを暴いてみせる物語でそのやり方は京極堂の憑物落としを連想させる.ただし「この世に不思議なことなど何もない」という科学/合理主義を後ろ盾にしたもの「ではない」点が味噌.それはマンガ5編の間に挿入された十干十二支や旧暦の由来を解説した身も蓋もない4編の「付記」を読めば分かる.「多くの人が、迷信として表面上は忘れたように生活していながら、その時々に顔を出す「占い」や「俗信」を完全に捨て去ることができないのは、その不可解さが、わたしたち一人ひとりの存在自体の本質的な不可解さにつながることだからなのです。」(「付記三…九星占い」結語)ということ.
○仁木悦子『猫は知っていた』(講談社文庫 1975.親本 1957)
○同『刺のある樹』(角川文庫 1982.親本 1961)
○同『みずほ荘殺人事件』(角川文庫 1979.親本 1960)
高円寺「円盤」で売っていた「仁木悦子ボックス」(中古文庫本12冊セット)が気になって買ったところからマイ仁木ブーム発生.
○筒井康隆『世界はゴ冗談』(新潮社 2015)
近年の筒井の中では良い.
○仁木悦子『暗い日曜日』(角川文庫 1979.親本 1962)
○乾緑郎『機巧のイヴ』(新潮文庫 2017.親本 2014)
パラレル日本の江戸時代後期を舞台にしたSFミステリの連作短編集.巻頭表題作の結末を予想できず久々に「やられた!」と思い癪だけど嬉しかった――やっぱりミステリにはびっくりさせてもらいたいからね.他の収録作品も奇想に溢れて上出来だが表題作の衝撃が強すぎて霞んでるのが残念.それにしてもこれが未だにマンガにも映画にもなっていないのは何故?
○同『機巧のイヴ新世界覚醒篇』(新潮文庫 2018)
意外にユーモラスで緩い.前作と同質のシリアスさや緻密さを期待した向きはがっかりしたかも知れないが私はこれはこれで悪くないと思う.ただ前作もそうだったがカバー挿画のイヴは(読者が100人いれば100人のイヴがいるにしても)違和感ありすぎ.
○仁木悦子『夢魔の爪』(角川文庫 1978.親本 1970)
○同『穴』(講談社文庫 1979.親本 1971)
○同『三日間の悪夢』(角川文庫 1980.親本 1973)
○同『灯らない窓』(講談社文庫 1982.親本 1974)
○同『青じろい季節』(角川文庫 1980.親本 1975)
○田村由美『ミステリと言う勿れ1』(小学館フラワーコミックスα 2018)
○同『同2』(小学館フラワーコミックスα 2018)
ほとんど台詞ばかりで動きの少ない舞台劇みたいなマンだが全く飽きずに読める.主人公=整くんは実写なら渡部豪太(「ふるカフェ系ハルさん」)だろうか(外見の印象だけで言ってる).
×谷口トモオ『《完全版》サイコ工場A』(リイド社 2007)
ホラーファンの間で評価が高いマンガらしいが捻りが足りず画力の無駄遣いに思える.
△同『《完全版》サイコ工場Ω』(リイド社 2007)
Aよりは捻りがある.丸尾末広に似た作品多し.
△たもさん『カルト宗教信じてました。』(彩図社 2018)
○仁木悦子『夏の終る日』(角川文庫 1983.親本 1975)
○リンジー・フェイ『ジェーン・スティールの告白』(ハヤカワ・ミステリ 2018)
○仁木悦子『銅の魚』(角川文庫 1984.親本 1980)
○小川哲『ユートロニカのこちら側』(ハヤカワSFシリーズJコレクション 2015)
○仁木悦子『一匹や二匹』(角川文庫 1987.親本 立風書房 1983)
○薬丸岳『天使のナイフ』(講談社 2005)
登場人物の一人貫井哲朗の名は明らかに貫井徳郎から採ってるな.
○仁木悦子『林の中の家』(講談社文庫 1978.親本 1959)
仁木悦子気に入って全部揃えたが一部は積ん読.殺人は起こるも心が和むオアシスみたいなミステリが主だがハードボイルド系が意外に良い.
○烏賀陽弘道『「Jポップ」は死んだ』(扶桑社新書 2017)
○大森望・日下三蔵編『年刊日本SF傑作選プロジェクト:シャーロック』(創元SF文庫 2018)
○飴村行『粘膜兄弟』(角川ホラー文庫 2010)
○同『粘膜戦士』(角川ホラー文庫 2012)
○日本推理作家協会編『暗闇を見よ最新ベスト・ミステリー』(光文社カッパ・ノベルス 2010)
2007年1月号〜2009年12月号までの諸雑誌に掲載された短編ミステリの中から13編を選出したアンソロジー.結果的にホラー寄りの作品が多い中で法月綸太カの超マニアックなメタミステリ「引き立て役倶楽部の陰謀」が異彩を放つ.
○東雅夫編『厠の怪便所怪談競作集』(メディアファクトリー文庫 2010)
書名どおりのアンソロジーで京極夏彦・平山夢明・福澤徹三・飴村行・黒史郎・長島槇子・水沫流人・岡部えつによる書き下ろし短編小説8作とエッセイ2編を収録.一見際物めいているが後書きを兼ねた巻末の編者によるエッセイ「厠の乙女――便所怪談の系譜」を読むとなかなか真面目な企画であることが分かる.もう1編のエッセイは大御所松谷みよ子による「学校の怪談」のうち便所絡みのものを集めたもの.小説は京極作品を除いてそれぞれ面白い.
△飴村行『粘膜黙示録』(文春文庫 2016)
筒井御大もそうだけど飴村もエッセイは本人が思っている(であろう)ほど面白くないので小説だけ読んでいればいいと思う.飴村と高田純次とクリスチャン・ディオールが同じ誕生日(1/21)だというどうでもいい情報を得る.
○飴村行『粘膜探偵』(角川ホラー文庫 2018)
○同『ジムグリ』(集英社文庫 2018.親本 2015)
物語自体は単純で本来短編か精々中編に収まるところが長編になったのは主要な舞台となる地下帝国のいわば「設定資料」が相当量書き込まれているからである.しかしこの執拗な疑似科学的解説こそが作者の持ち味.それを楽しめる人=ファンということだ.この人の小説も全部揃ってしまった.私はファンなのか?
○ファブリツィオ・グラッセッリ『ねじ曲げられた「イタリア料理」』(光文社新書 2017)
イタリア料理にまつわる誤解を解くアンチグローバル食品産業の書.レシピも載ってて実用的.
○深町秋生『アウトバーン』(幻冬舎文庫 2011)
深町作品は『果てしなき渇き』(サラリーマン時代に心を病んでリタリン漬けで書いた作品とのこと)しか読んでいなかったが本作を読んだら止まらなくなった.「組織犯罪対策課八神瑛子」シリーズ1作目.
○浦沢直樹『夢印』(小学館ビッグコミックスペシャル 2018)
職人芸的エンタメ.フジオプロとのコラボでイヤミが助演男優として登場.浦沢は手塚プロもフジオプロも籠絡したから残るは藤子・F・不二雄プロと石森プロか.
○おざわゆき『傘寿まり子1〜7』(講談社BE-LOVEKCDX 2016〜2018)
最年長ヒロインマンガ.社会ネタテンコ盛り.まり子は元気でいいけどそれは結局「過去の遺産」があるからで普通の老人たちの基準から見ればファンタジー.
○深町秋生『アウトクラッシュ』(幻冬舎文庫 2012)
八神瑛子シリーズ2作目.前作よりも派手.
○同『ドッグ・メーカー』(新潮文庫 2017)
主人公以外のキャラもビンビン立ってて群像ドラマ感あり.
△湊かなえ『ポイゾンドーター・ホーリーマザー』(光文社文庫 2018.親本 2016)
1.「マイディアレスト」は依怙贔屓された妹に対する姉の憎悪と復讐という陳腐なテーマ.『暗闇を見よ最新ベスト・ミステリー』所収の歌野晶午「おねえちゃん」によく似た設定だがあっちのほうが捻りがあって「ミステリー」として成立している.
2.「ベストフレンド」は1.に較べれば捻りがあるのでOK.本作品中では一番出来が良いと思う.
3.「罪深き女」.落ちはあるんだけど落ち前とのバランスが今ひとつ.
4.「優しい人」.いかにも現実にありそうな話で怖いけれど「だったらフィクションにする必要がないのでは?」と思わされるのは落ちがお座なりで弱いから.
5.「ポイズンドーター」は「毒母親」をその娘の視点で描いた作品.日頃親子の反りが合わないと感じている読者にとっては本作品集中で最もイヤ〜な短編だろう.落ちは今ひとつだが作中の架空テレビ番組「人生オセロ」は実制作されたら面白そう――クレーム必至だろうけど.
6.「ホーリーマザー」は5.を別の登場人物の視点で描いた作品.5.の独善的視点を相対化し「人それぞれ」とすることで救いを持たせる目論見と思われる.
湊かなえは一貫して家族や友人同士の気持ちのすれ違いを描いている.この程度でも今どきは広義のミステリーの範疇に入るのだろうがやはり私には物足りない.
○深町秋生『アウトサイダー』(幻冬舎文庫 2013)
八神瑛子シリーズ3作目.ヒロインは復讐を果たしたのでこれで完結かと思ったら4作目も出てる.読まねば.
○ブライアン・ハーバー『死をうたう女』(創元ノベルズ 1996)
○福間良明『「戦争体験」の戦後史世代・教養・イデオロギー』(中公新書 2009)
「戦争体験論の系譜学」として興味深い.一言でいえば「歴史は繰り返す」.
△「ノベルアクト3 特集 「貞子3D2」萌える貞子」(角川書店 2013)
○深町秋生『死は望むところ』(実業之日本社文庫 2017)
多数の主役級キャラがバンバン殺されて誰が生き残るか予想がつかないところが面白い.作家として延命するためにはこうした一冊で完結する小説よりもシリーズものを書いたほうが有利な筈でそのためには魅力的で簡単には死なない主人公が必要.深町には主人公が死ぬか死んだも同前になって終わる小説が多かったので売れるために八神瑛子のようなシリーズヒロインを創作してエンタメ色を強めると共に量産体勢に入ったのだと推測する.でもそれは全然悪いことではない――作品が面白くて筆が荒れない限りは.他方連城三紀彦のようにシリーズものを殆ど書かなかった作家もいる.これはもう作家のキャラの問題.
○大田俊寛『現代オカルトの根源:霊性進化論の光と闇』(ちくま新書 2015)
陰謀論研究の基礎知識.
○南陀楼綾繁『編む人ちいさな本から生まれたもの』(ビレッジプレス 2017)
感想を一言でいえば「本づくりに正道なし」.
○小田扉『そっと好かれる』(太田出版 2002)
「団地トモオ」では描けないエロ風味.
○塩川桐子『差配さん』(リイド社 2017)
○同『ワカダンナ』(リイド社 2018)
塩川作品は心が洗われる大江戸人情もの.地味に超絶技巧.
○斎藤潤一郎『死都調布』(リイド社 2018)
最近攻めてるリイド社.本作は安部慎一+菅野修+蛭子能収という感じの取り分け不穏な幻想と暴力のマンガ.
○川勝徳重『電話・睡眠・音楽』(リイド社 2018)
斎藤潤一郎と共に2018年の収穫.ガロの遺伝子を継ぐ(なんて言われたくないだろうけど)若手たち.
○東陽片岡『ワシらにも愛をくだせえ〜っ!!』(青林工藝舎 2018)
12年ぶりの新作といっても内容はいつもと同じ――みんな同じでみんな良い(笑).
○井上雅彦編『物語のルミナリエ』(光文社文庫 2011)
3.11直後に編まれた「異形コレクション」48巻目.78人の作家が1編ずつ3200文字以内のショートショートを寄せている.多くの作品に震災の影が付きまとう.特に気に入った作品:平谷美樹「猫」飛鳥部勝則「幽霊に関する一考察」草上仁「オレオレ」梶尾真治「すりみちゃん」北原尚彦「ハドスン夫人の内幕」.次いで植草昌実「地下洞」八杉将司「ぼくの時間、きみの時間」田丸雅智「桜」堀敏実「窓」深田良「空襲」加門七海「灯籠釣り」真藤順丈「異文字」上田早夕里「石繭」坂本司「神様の作り方」雀野日名子「下魚」.
○アゴタ・クリストフ『ふたりの証拠』(ハヤカワepi文庫 2001.親本 1991)
『悪童日記』の続編.前作は一人称複数形で書かれていたが本作は三人称.心理描写を排した簡潔な文体はまるでハードボイルド.最後はメタっぽくなる.極めてカッコイイ.
○萩尾望都『美しの神の伝え〜萩尾望都小説集〜』(河出文庫 2017.親本『音楽の在りて』2011に3編追加)
○アゴタ・クリストフ『第三の嘘』(ハヤカワepi文庫 2002.親本 1992)
『悪童日記』三部作完結篇.今度は一人称単数形で兄弟の複数視点.3作それぞれ文体が異なり整合性もないので普通のシリーズ小説とは趣が違う.共通点は「容赦の無さ」.仕上がりはやはり1作目がベスト.
○高木瑞穂『売春島「最後の桃源郷」渡鹿野島ルポ』(彩図社 2017)
知る人ぞ知る三重県沖合の有名な島のドキュメンタリー.売春島と原発ムラの構造は地域住民の心性において類似していると思う.
○猪野健治『テキヤと社会主義1920年代の寅さんたち』(筑摩書房 2015)
記述に重複が多いが良い本.
・グレーゾーンが無いのが望ましい社会とは言い切れないところが悩ましい.三宅正太郎判事のような清濁併せ呑む大人が居ないとまずいのではないか.
・高嶋三治が魅力的.
・尾津組組長が関東大震災で焼け残った陶器をネタにして大儲けしたというのはイイ話.
p.40 争議を政治目的化しようとする社会主義者と、賃上げなど労働条件の改善を第一義とする労働者の間に亀裂が生じた。加えて社会主義者をリーダーとする労働組合内部での無政府主義者と共産主義者の対立などが重なり、社会主義運動そのものが大きな暗礁に乗り上げた。(中略)ついに戦線の統一はならなかった。
p.48 暴力団排除をうたう各自治体の条例が暴力団に限って適用されると思うのは甘すぎる。いつの間にか暴力団の解釈が拡大加工されて「反社会勢力」の一つと言い換えられている事実を見れば明らかだろう。[→反ヘイト法も同様]
p.92 こういう場合〔大震災〕、大衆は愚民≠ニ化しやすいが、治安を守る為政者の側から政策的な流言が流されて社会不安をかき立て、注意をある一点に集中し、誘発する恐れある社会的、経済的混乱を防止しようとするこのような非常対策は官僚の考えそうな政策であった。(山本虎三『生きてきた』南北社)
p.115 倉持忠助の東京市議会における追及ぶりについて添田知道〈電力の知識がないとわからない話も、民間の小会社よりも高い値で、市が買っているのはおかしくないか、と言うことはよく分かる。利権のからみ合いだ。伏魔殿と言われた東京市の、そのカラクリの一角へ、倉持がライトをあてたことになる〉
p.162 与野党を含めてすべての政党が体制に組み込まれている現代政治の世界では、もはやテロリストを除いて「転向」は死語である。
p.170 思想運動には常に連絡が取れる事務局、運動をリードする中心人物、手足となる活動家、雑務処理車が不可欠である。
p.185 これら一連の新法・法案(注:暴対法、麻薬二法、銃刀法改正、盗聴法、組織的犯罪処罰法の新設、共謀罪)組織犯罪対策をたてまえとしながら、やくざを含むあらゆる組織、団体、国民のすべてを権力の管理下に置くことを最終目標としている。とくに気まぐれに正義に目覚め、あるいは時代が暗転しようとするとき、民衆の側に立って権力に牙をむく任侠の徒は、権力にとって諸刃の剣なのである。[→改正組織犯罪処罰法は2017年6月成立7月施行]
p.192 反共抜刀隊″\想は、まぼろしに終わったものの、体制の論理とてきやの利害は、深く絡まりあって再編成が進んでいく。
p.194 体制側のやくざの取り込み方はじつに緻密かつ巧妙であった。(略)ヤミ市時代は、アウトロー化した在日朝鮮人、旧台湾省民とてきや、博徒精力を対立、抗争させて、その双方を押さえ込むと共に、連帯の芽を摘み取り、弱体化した警察力をカバーした。それが落ち着くとこんどはしめあげにかかる。(改行)その過程で左翼勢力が肥大化すると、手綱を緩めてことに立ち向かわせる。高度経済成長の波に乗って、やくざの経済界への進出が本格化するて「組織暴力」を口実に大弾圧を開始する。(注略)戦後日本のやくざ政策は、占領下を含め、反体制活動家をかくまい、いざというときは敢然と権力に立ち向かう任侠思想の息の根をとめることにあったと言える。(改行)やくざをマフィアに変質させてしまえば、まさにクライム・シンジケートとなり、任侠の思想は自然に崩壊してしまうシカケである。
△総特集 河出書房新社編集部「筒井康隆:日本文学の大スタア(文藝別冊)」(河出書房新社 2018)
ざっくり読んだだけだが歯が浮くようなヨイショエッセイが並ぶ中で栗原裕一郎の真っ当な批評が光る.この際渡部直己にも寄稿させれば良かったのに.
○深町秋生『卑怯者の流儀』(徳間文庫 2018.親本 2016)
連作6作から成る短編集.深町には悪徳刑事が主人公の作品も多いが他の作品の主人公に較べるとゲスくて情けないところが特徴.暴力度は低めでギャグも散りばめられている.シリーズ化希望.
○同『バッドカンパニー』(集英社文庫 2016)
○同『オーバーキルバッドカンパニー2』(集英社文庫 2018)
悪徳?美人女社長が率いるブラック人材派遣会社「NAS」が活躍する一話完結の短編シリーズ.深町作品としては軽めだがキャラが立ったエンタメとしてやはり読み始めたら止まらない.
○佐藤正午『鳩の撃退法上』(小学館文庫 2018.親本 2014)
私は饒舌な小説は苦手である。いや、単に饒舌と言えば誤解を招くかも知れないので「修辞的に饒舌な小説」と限定しよう。実名を挙げれば、村上春樹、高橋源一郎、円城塔、町田康、金井美恵子といった作家たちの小説である。もちろん彼らの作品の全てがそれに該当するわけではないし、金井美恵子などは読み始めてからの数年間は苦手どころか好きな作家の一人でさえあった。いま私が彼らの小説を読もうとしても冒頭の数ページで挫折してしまうのは生理的な抵抗感に近いものを覚えるからで、それはどうしようもない。だが、それではなぜ同じように「修辞的に饒舌」と言ってよさそうな伊坂幸太郎、佐藤正午、連城三紀彦といった作家たちの小説は抵抗感なく読むことができるのだろうか。(中略)『鳩の撃退法』は相当くどい小説であるが、それはそれとして、私は上巻の四分の一ぐらいまで読み進めたところで、『anone』がこの作品の影響を受けていることに気づいた。(『anone』というのは、2018年1月10日から3月21日まで日本テレビ系列で放映された広瀬すず主演のテレビドラマで、脚本は『カルテット』等で知られる坂元裕二によるオリジナルである。私は悪くない出来だと思い楽しんだが、視聴率は低かったらしい。物語が暗く地味で妙に芝居じみていたことや、広瀬すずが俳優としてもったいない使われ方をしていたことに原因があるのかも知れない。)「影響」の具体的な内容はネタバレになるので書かないが、影響を受けていたと言ってもパクリではなくオマージュであったことを意味する――といった言い回しはパクった犯人の言い訳のように聞こえるかも知れないけれど、実際そのように考えたのである。これは『鳩』を読んでから『anone』を観た人であれば同意できることだと思うので、『anone』を先行して観ていた私は遅ればせながらその事実に気づいた読者ということになる。……といった具合に正午の小説のような回りくどく嫌らしい言い回しは何故か感染るんですわ。
△同『鳩の撃退法下』(小学館文庫 2018.親本 2014)
でも下巻は今ひとつ盛り上がらなかったなぁ――巧みな小説ではあるけれど.
△同『月の満ち欠け』(岩波書店 2017)
直木賞受賞作というものを読んだのはひょっとして初めてかも知れない.感想を一言でいえば「輪廻転生って面倒臭い――やっぱり解脱したいもんだネ」だ.謎なのは作者がどういう動機でこんなスピ臭い小説を書いたのか――後に知ったところでは元々担当編集者から出たアイディアだったらしい――ということと何でこれで直木賞を獲れたのかということである.ちなみに私見では正午の作風は幸太郎と春樹の中間ぐらいに位置づけられ『鳩』は春樹寄り『月』は幸太郎寄り.
△深町秋生『ヒステリック・サバイバー』(徳間文庫 2018.親本 2006.宝島社→2008 宝島社文庫)
デビュー2作目を遡って読む.長編青春ノワール.悪くはないが伏線が生かし切れていない憾みあり.
○同『インジョーカー』(幻冬舎 2018)
最新作にして八神瑛子シリーズ4作目.過去3作品に較べるとやや地味だが外国人技能実習生の問題が絡む同時代的な内容.毎回グッとくる場面が一つはあるが今回はあのキャラが死んじゃうところかな.
○深町秋生『東京デッドクルージング』(宝島社 2008)
デビュー3作目.後のヴァイオレンス路線作品のプロトタイプと言えそうなノワール.暴力団・警察・都市ゲリラ・スパイ組織・ヒロイン格の戦闘員らが入り乱れて勝者なき死闘を繰り広げる.物語の舞台は2015年の東京だが現実にはこの間内外の政治状況は大きく変わったし都市の荒廃もここまで進んでいない――今のところは.しかし山上たつひこ「光る風」望月三起也「ジャパッシュ」大友克洋「AKIRA」等に描かれたディストピアを絵空事だと一笑に付せなくなってしまったように本作に描かれる国民の分断・移民の増加・「この国の凋落」といった状況は現実に進行中である.
△歌野晶午『そして名探偵は生まれた』(祥伝社 2005)
この人の作品で好きなのは幻想味のある乱歩へのオマージュ『死体を買う男』.後は外連味があるものが多くてそれほど好きじゃない――ミステリ賞を総なめにした『葉桜の季節に君を想うということ』にしても(途中でネタに気づきもしたし).でも本作品集(中編3作収録)は捻り具合が適度で悪くなかった.特に「館という名の楽園で」はミステリ好きならグッとくるんじゃないかしら.
△深町秋生『ダブル』(幻冬舎文庫 2012.親本 2010)
4作目.長編.顔も声も変えて自分を殺した(と思っている)組織に潜入し復讐する男という設定はベタだし最初の1/3くらいの展開はまだるっこしいけれど十分面白い作品ではある.物足りなく感じたのは後の諸作品を先に読んで比較してしまったせいだと思う.
○岸本佐知子『なんらかの事情』(筑摩書房 2012)
『ねにもつタイプ』の続編に当たるエッセイ集(「ちくま」に連載中).相変わらず変なことばかり考えてる人だが「変化」と題されたエッセイの終わりに出てくる相撲取りが変身する記述を読んでやはり変身する横綱が頻繁に登場する渡辺電機(株)(マンガ家)のブログを想起し両者の妄想センスは案外近いと思った.岸本のほうがずっと上品だが下品な電機もまた良し.
△深町秋生『ダウン・バイ・ロー』(講談社文庫 2012)
5作目.衰退し続ける地方都市の闇に巣喰う犯罪に巻き込まれた女子高生が主人公の長編ノワール.作者の出身地であり現住地でもある山形県の都市をモデルにしていて登場人物の会話にも方言が頻出する.また3.11後に書かれた最初の作品ということもあってか震災に関わる描写も生々しい.そうしたリアリティは確保しているものの暴力描写も結末も深町作品としてはやや生ぬるい.
△同『ジャックナイフ・ガール桐崎マヤの疾走』(宝島社文庫 2014)
「悪事はすれども非道はせず」のヒロイン――受けるピカレスクの必要条件かも――が暴れ回る近未来の東北を舞台にした短編連作5話.『ダウン・バイ・ロー』と同じ山形の架空都市も出てくるが時代設定は10年以上下った2020年代らしい.南海トラフ地震が起こって日本の荒廃は更に進んでいる――これネタバレ?いや大したことじゃないな.劇画調でサクサク読めるが少々軽めで食い足りない.
○同『猫に知られるなかれ』(角川春樹事務所 2015)
戦後占領下昭和22〜23年の東京を舞台にした焼け跡長編スパイアクション.『あれよ星屑』+『ジョーカー・ゲーム』の味わいでノワール感は薄く読後感はむしろ爽やか.深町はこういうのも書くのかと意外.続編希望.
映画(含DVD・BRD)
2017
○白石和彌『牝猫たち』(2016 日活)
ロマンポルノリブートプロジェクト第3弾にして漸く「リブート」と感じさせる「今」を描いた作品.
○田中登『(秘)色情めす市場』(1974 にっかつ)
映画館で観るのは7回目.芹明香のトークショー付き上映で嬉しかった.
×園子温『ANTIPORNO』(2016 日活)
ロマンポルノリブートプロジェクト第4弾.園子温らしい映画ではあるがロマンポルノとしては如何なものか.「男性ではなく女性『主体』のポルノを!」と訴えているかのように見える部分もあるが全体として曖昧なプロパガンダという印象.ロマンポルノに対する批判として作ったのなら『ANTI-ROMANPORNO』とするべきだったしPORNO全般を批判するつもりで作ったのなら『ALT.PORNO』とでもするのが適切だったろう.監督は挨拶の中で本作撮影時期が2015年8月頃でシールズと一緒にデモに参加した話をしていたがどういうつもりなのか.シールズが人工芝であることを未だ知らないのだとしたら無知だし知ったうえで肯定しているのであれば園子温もあっち側ということになる.極彩色の映像は蜷川実花を思わせるが映画としては蜷川よりは増し.
△伏原健之『人生フルーツ』(2017 東海テレビ)
作品自体はお涙頂戴ではなく悪くなかったがこんなに大盛況で混雑するのはおかしい.この種の映画には「感動したい病」の患者が集まるのだろうか.
○中田秀夫『ホワイトリリー』(2016 日活)
ロマンポルノリブートプロジェクト最後の作品.中田監督作品は『リング』ぐらいしか観たことがなく正直あまり期待していなかったが予想に反してシリアスかつ濃密だった.主演女優の飛鳥凜(26歳)は初めて知ったが泣き顔が良かった.私がプロジェクト作品に順位を付けるなら:1位『ホワイトリリー』2位『牝猫たち』3位『風に濡れた女』4位『ジムノペディに乱れる』5位『アンチポルノ』.ただし往年の作品群に較べて画期的な出来のものは残念ながら一つもなかった.
○キム・ソンス『アシュラ』(2016 韓国)
登場人物がことごとく凶悪狂暴なクズというノワール.
○ナ・ホンジン『哭声コクソン』(2016 韓国)
ホラー/オカルト映画の幕の内弁当.観客を混迷させる非常にタチの悪い脚本が良い.國村隼の褌と全裸……
○パク・チャヌク『お嬢さん』(2016 韓国)
原作はサラ・ウォーターズの『荊の城』だが原作の舞台=19世紀後半の英国を20世紀半ば日本統治時代の韓国に変えるという換骨奪胎ぶりが凄まじい.サービス過剰のエロティックミステリというかロマンポルノリブートプロジェクト5本を束にしたよりもロマンポルノ的.
△李相日『怒り』(2016 東宝)
役者陣は良かったが演出がピンとこない.
○ジェームズ・ガン『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー・リミックス』(2017 米)
1作目のほうがいいけどね.
○ドゥニ・ヴィルヌーヴ『ブレードランナー2049』(2017 米)
1作目のほうがいいけどね.
2018
△白石和彌『彼女がその名前を知らない鳥たち』(2017 クロックワークス)
白石監督は相変わらずそつがない.だが蒼井優の十和子はまだしも阿部サダヲの陣治は汚れが足りなくてミスキャスト――西村賢太『苦役列車』の映画版で主人公役を演じた森山未來が汚れ足りなかったのと同様.娯楽映画(特に邦画)では観客に不快感を与える役どころにも限界があるのだろう.まほかるの原作に較べると物足りない.
△松原明・佐々木有美『非正規に尊厳を!――メトロレディーブルース総集編』(2018 ビデオプレス)
会社側が正規社員の地位や給与を非正規社員レヴェルに押し下げようとしている今日にあって「正規社員並に」という裁判闘争に有効性はあるのだろうか? ブラック会社に居残れたところで不快な思いをするだからカネだけもらってさっさと辞めたほうがいいと思う.そもそも今の司法に公正さなど望めないし.
○吉田大八『羊の木』(2017 「羊の木」製作委員会)
登場人物の設定も展開も結末も原作とは全然違っててかなり簡略化もされていたけれど違和感のない換骨奪胎ぶりだったので楽しめた.ジワジワくる不穏な雰囲気や舞台である魚深市や「のろろ祭」の描写は原作に近い感じ.
△ギルレモ・デル・トロ『シェイプ・オブ・ウォーター』(2017 米)
・監督が「『大アマゾンの半魚人』を幼少期に見て半魚人を不憫に思い書いた二次創作」とのことだがデル・トロは1964年生まれだから1954年封切りの『半魚人』をリアルタイムでは観られない→リバイバル上映で観たはず→つまり疑似ノスタルジー.
・私はおそらくデル・トロが生まれた時分?に父親に連れられて洋画の二番館で『半魚人』を観た.当時は知る由もなかったが当然リバイバル上映だった筈.
・映画に散りばめられた1950〜1960年代のアメリカ大衆文化の夥しいガジェットも当然疑似ノスタルジーの産物.
・楽しめたけれども期待したほどの変態性はなかった――だが勿論50〜60年代当時の映画にはあり得ない変態度ではあることからも捏造されたノスタルジーと捉えられる.
・イライザがcreatureの子供を産んでハッピーエンドという展開でも良かったのではないか.
・人語を喋る馬のエドくんが主人公のテレビドラマ『ミスター・エド』はアメリカでは1961〜1966年放映.日本では『お馬のエドくん』として1968年に放映.エドくんの吹き替えは四代目三遊亭金馬.観た記憶がある.
・creatureの故郷アマゾン川は(少なくとも現在は)淡水なのに何故海水プールに棲まわすのか? ここが一番おかしい.
・何故creatureに名前を付けなかったのか? ひょっとしてgillmanというのは登録商標なのか?
・creatureの顔は魚よりもむしろ亀を連想させる.
・「魚が猫を食うのが本能」って逆でしょ? わざとか?
・デル・トロ本人はナイーブなだけかも知れないがハリウッドの反トランプキャンペーンに利用されていると思う.誰からも文句が付けにくい被差別者/マイノリティを利用した目くらまし.LGBTのGはGillmanのG?
・なるほどこの頃のイスラエルは親ソだったのか――結局は両建だが.
・頭の中でずっと鳴っていたのはピンク・レディー「モンスター」.〽首に鰓蓋あったってこわいひとと限らない 爪がキリキリとがっても悪いひとと限らない
○チョン・ビョンギル『悪女』(2017 韓国)
ミステリとしては単純な筋書きを時系列のシャッフルで誤魔化している憾みはあったがヴァイオレンスアクションの徹底ぶりには感心した.印象としては全体の7割方が血生臭くどうやって撮ったんだろうと思うシーンもあり.昨今の韓国映画の過激さ・容赦の無さは痛快.
△ポール・ワイツ『ダレン・シャン』(2009 米)
予備知識なく観た.吸血鬼ものの緩いダークファンタジーでそこそこ楽しめたが後でネットを見たら酷評のオンパレード.特に原作ファンは怒っていた.私は読んでいないので何とも言えないがそれで続編が作られていないのかな.ピンポイント的にはフリークサーカス団長の渡辺謙が歪な大頭のフー・マンチューみたいなキャラで面白かった.
△マイケル・グレイシー『グレイテスト・ショーマン』(2017 米)
『ダレン・シャン』の翌日に観たら偶然こちらもフリークサーカス映画だった.二日続けてヒゲ女やコビトたちを観るとは思わなんだ.一応こちらは実話ベース.ハリウッド映画的反差別/多様性主義の胡散臭さはお約束だから目をつむるとしても
・余りにも現実を歪めた美談仕立て.
・最近のミュージカル映画はみなそうなのか? ミュージックビデオと区別がつかない浅薄さ.
・19世紀が舞台なのに音楽が余りにも今風で嘘臭さが目立つ.
といった点で駄目.
×スティーヴン・ソマーズ『ヴァン・ヘルシング』(2004 米)
映画館で『グレイテスト・ショーマン』を観た後に家で積ん観DVDの中からたまたまこれを選んだらまたもや主演はヒュー・ジャックマンで期せずしてジャックマン日和.で本作は……ドラキュラのみならずフランケンの怪物や狼男も現れて「怪物くん」かよ! 盛り込みすぎ+雑な脚本で映画というよりもアトラクション――ていうかハリウッド映画の大半はそんなもんか.
○マーク・オズボーン『リトルプリンス星の王子さまと私』(2015 仏)
全然期待していなかったので割と良かった.「おじさんと男の子」の友愛のヴァリエイションとして「おじいさんと女の子」の友愛を描いてるところから豊田徹也『ゴーグル』(これも良いマンガ)を想起した.原作に基づくパートはストップモーションアニメでそれ以外はCGアニメという使い分けは正解だと思う.だがドリームワークスは不気味の谷を越えたか?は微妙なところ.それにしても欧米映画界はジャパニメをすっかり咀嚼しちゃった感じだなぁ.
△小泉徳宏『ちはやふる 上の句』『同 下の句』(2016 東宝)
△大根仁『バクマン。』(2015 東宝)
連載中のマンガを実写映画化するのはかなり無理がある作業だと思うが『ちはやふる』や『バクマン。』はよくできていると思う.でも「すごく端折ってる感」からは逃れようがなくダイジェスト版でも観ているような慌ただしい雰囲気に終始してじっくり楽しむことはできない.
○リュック・ベッソン『アーサーとミニモイの不思議な国』(2006 仏)
身長2.5mmの地下部族たちの抗争を実写と3DCGアニメの組合せで描いたオリジナル脚本のファンタジー映画.デヴィッド・ボウイやマドンナをアニメ声優として使ってるところは贅沢だがあまりヒットしなかったらしい.凡庸なハリウッド産ファンタジーよりは新味があって面白かったが.ミア・ファローは年を取っても素敵.
○チャールズ・ウォルタース『イースター・パレード』(1948 米)
フレッド・アステアとジュディ・ガーランド主演の古いミュージカル.こういう映画は豪華な歌と踊りをただ堪能すれば良いと思う.副主役のピーター・ローフォードを観て日本版でやるなら1960年代の高島忠夫かしらと思ったのは須川栄三『君も出世ができる』(国産ミュージカル映画の傑作)を想起したから.
△ジェームズ・L・ブルックス『幸せの始まりは』(2010 米)
『愛と追憶の日々』の監督なのね.偶然テレビ録画されていたものだがまず自発的に観ることのないジャンル=恋愛映画だったので貴重な機会だった.登場人物全員が自分に正直=我が儘なのとジャック・ニコルソンがいいところのない役柄だったのと主演のリース・ウィザースプーン(濱田マリ似)のしゃくれ顔が魅力的なのが良かった.
△ガブリエル・アクセル『バベットの晩餐会』(1987 デンマーク)
最近読んだ津原泰水の無茶楽しいグルメ小説『エスカルゴ兄弟』でも言及されていたのでこれもシンクロニシティ.予備知識なしで観たが後で調べたら原作者を含めてなかなか興味深い作品.(宗教的に)禁欲していてもご馳走が美味かったら素直に美味いと言えよ!ってなことが描かれるわけだがそれが(とりわけこの不景気なご時世に)「いいお話」と思えるかどうか? 限界集落を維持するための絆として宗教(ここではカトリック)は必要悪なのか? 料理を芸術と呼ぶのは如何なものか? 芸術家(ここではフランス料理のシェフ)はほんとに「芸術家であるということだけで貧しくない」のか? 等々疑問.
○是枝裕和『海街diary』(2015 東宝・ギャガ)
「マンガの二次創作としての映画」だがそれが悪いこととは全く思わなかった.状況及びキャラの初期設定を原作に忠実に描いたうえで監督の志向で「サッカードラマ」の要素をほぼ全面カットし「ホームドラマ」に収斂させている.
○トッド・ヘインズ『ワンダーストラック』(2017 米)
落雷・博物館・奇遇――要約困難だけど良い映画.
△ハリー・ボーモント『ブロードウェイ・メロディー』(1929 米)
楽曲はまあまあだが筋書きは腑に落ちない.後でググったところ1929年(大恐慌があった年だが封切りはその前)初のオールトーキーミュージカル映画だった.歌と踊りのレベルが低かったのは当時は後に「ミュージカル映画の石器時代」と呼ばれた時代で未だブロードウェイからハリウッドに巧いミュージカル俳優が流入していなかったためらしい.歴史的価値だけはある作品といったところか.
×ロバート・アラン・アッカーマン『ラーメンガール』(2008 米)
西田敏行が作るラーメンが全然美味そうに見えないところが駄目.主演のブリタニー・マーフィが本作公開後2009年に32歳で急死したのは気の毒ですが.
△トラヴィス・ナイト『KUBO/クボ二本の弦の秘密』(2016 米)
ストップモーションアニメの見事さは全く大したもんだし日本文化への敬意は本物だと思うし世界的に評価が高いそうだけど今ひとつピンとこなかった.米国人が想像した架空の江戸時代の日本が舞台で主人公の外見も白戸三平のカムイっぽいけどストーリーもキャラクターもやはり西洋臭くて違和感が募る.描かれる死生観も日本よりむしろメキシコを思わせるし――似てはいるわけだが.そもそも姓である「クボ」を名として使ってるところが変なのに制作中に誰も指摘しなかったのか?
○スティーヴン・スピルバーグ『レディ・プレイヤー1』(2018 米)
1980年代のポップカルチャーへのオマージュ満載のゲーム映画.膨大な引用がなされている――著作権の調整が大変だったらしい――がウィキればネタ元が分かる.『ブレードランナー』からの引用はちょうど『2049』制作中だったため断られて代わりに『シャイニング』を使ったのだそう――代わりになるのか? ともあれガンダムとメカゴジラが闘う映画なんて日本じゃ絶対撮れないし.ゲームのことは知らないけど能天気なエンタメに徹している点で『ブレードランナー2049』よりも楽しめた.
△フランク・オズ『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』(1986 米)
オリジナル版映画→オフ・オフ・ブロードウェイミュージカル→ミュージカルの映画版という経緯のリメイクだがミュージカル版を踏襲したバッドエンドのラッシュ試写が観客に不評だったためハッピーエンドの脚本に書き換え撮り直して公開してヒットしたのだそう.今回観たBRDにはバッドエンド版ディレクターズカットも収録されていてそっちのほうが断然○――ラストはゴジラ+ウルトラQ(マンモスフラワー)! ハッピーエンドが不本意だった監督と特撮スタッフはBRDとはいえお蔵入り映像が日の目を見たので少しは溜飲を下げたという.
○ロジャー・コーマン『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』(1960 米)
こちらがオリジナル版.いかにも低予算のB級ブラックコメディだが僅か2日間で撮り上げたというのは流石コーマン? キャラクターが全員どうかしちゃってるところが良い.駆け出しの頃?のジャック・ニコルソンもその一人で印象に残る.
○白石和彌『孤狼の血』(2018 東映)
全盛期の東映ヤクザ映画復活の狼煙という感じで楽しめた.原作小説の続編は今年3月に出たので映画の続編は再来年あたり実現するのでは.松坂桃李はイケメンなのに汚れ役に挑み続けている点に好感が持てる.役所広司も善人役より本作や『渇き。』みたいに壊れてる役のほうが断然良い.それにしても日本の役者はヤクザ役だけは巧いなぁ――セレブや知識人の役は下手というか似合わないけど.
○チャン・フン『タクシー運転手約束は海を越えて』(2017 韓国)
副主人公のドイツ人新聞記者が決死の取材〜報道していなかったら無かったことにされていたであろう「光州事件」がフィクションを交えて描かれる.今どきの韓国映画の容赦のない作り込みとそれでもエンタメとして成立している点が凄い.韓国では大ヒットなるも日本ではさる筋からの圧力のせいで上映館が限られ早々に打切りとの噂もある.1980年の光州は現在〜近未来の日本に重なるが日本人は韓国人のようにはお上と闘わず無抵抗に殺されていきそうだ.
△アダム・シャンクマン『ヘアスプレー』(2007 米)
ジョン・ウォーターズ版も観較べたい.
×ハワード・ホークス『紳士は金髪がお好き』(1953 米)
本当は頭のいいマリリン・モンローはこんなサベツ的な役を与えられて平気だったのだろうか?
イヴェント
2017
△1/21 コニカミノルタプラザギャラリーA『藏人写真展「さるく長崎―猫街散策U―」』/ギャラリーB『茂手木秀行写真展「星天航路」』/ギャラリーC『小池英文写真展「瀬戸内家族」』
1954年開設というから63年近い歴史を持つ同ギャラリーが1/23で運営終了というので最後の展示を観に行った.数える程しか行ったことがないけれど長く続いた施設が無くなるのは寂しい.猫の居る古い長崎の町並みを記録する藏人・テクニカルな星景写真を撮る茂手木・毎年正月と夏休みを妻の実家がある瀬戸内海の島で過ごし家族と風景を記録する小池.三者三様.
△2/19 国立科学博物館「ラスコー展」
×3/25 大和田さくらホール「赤塚不二夫祭」
久々に最低なイヴェントを観た.一番良かったのは最初の篠原勝之の下ネタトーク.ロフトプラスワンあたりでこれだけやればいいと思う.
○5/13 東京駅ステーションギャラリー「アドルフ・ヴェルフリ二萬五千頁の王国展」
後期にはコラージュも取り入れてるけど殆どは新聞用紙+鉛筆+色鉛筆のみによる作画+文章.緻密かつ膨大な作品群に圧倒された.アール・ブリュット界のホームラン王です.
○6/23 松濤美術館「クェイ兄弟―ファントム・ミュージアム」展
一卵性双生児だったのか――絵に描いたような「邪悪な双子」のイメージを体現してて笑える.オーソドックスな絵画から出発したことも知らなかった.60年代末期〜70年代初期にかけての多数の鉛筆画は緻密にして大胆で素晴らしい.ポーランドを初めとする東欧のポスターアートの影響が大きいというのも意外.一貫してるのはグロテスク+残酷趣味か.そして商業的には無節操.コカコーラやラウンドアップやケロッグのCMフィルムも作ってる.注文するほうも注文するほうだ.
○6/24 東京都美術館「バベルの塔」展
ブリューゲルだけじゃなく15〜16世紀に活躍したネーデルラントの画家多数の作品を展示していたがやはりボスとブリューゲルが圧巻.ボスは死後50年くらいに最初のリバイバルブームがあったそうで後世への影響力は半端じゃない――今もそうだけど.ブリューゲルももちろんボスの影響を受けてるけど幻想的な作風は風刺的な作風に転じて受け継がれたようだ.「バベルの塔」の原画は小さすぎて細部がよく見えず3D化画像に基づく解説DVDの上映と超拡大した複製版の展示が助けになった.ともかく緻密でどんな筆を使って豆粒のような人物等を描いたんだろう.この辺に較べると例えばダリの直筆なんて雑すぎて見ていられない.
×7/8 ヴィジョンズ「伊宝田隆子「立ちたさ_」展」
○7/16 Bunkamura「ベルギー奇想の系譜」展
中世ではまたもやボスとブリューゲルそしてルーベンスだが象徴派・表現主義・シュルレアリスム以降にも有名どころ多数.現代の作家代表はヤン・ファーブル.万遍なく楽しめる展覧会ではある.
△9/7 新宿島屋「MINIATURELIFE展田中達也見立ての世界」
2011年に始めてから毎日!!作品をアップしているという信じがたい写真家.
×9/16 井の頭公園西園特設テント「野戦之月『クオキイラミの飛礫ワタシヲスクエ!』」
○10/8 三井記念美術館「明治工芸から現代アートへ驚異の超絶技巧!」展〜KITTE「香港ミニチュア展」
△10/16 六本木スーパーデラックス「鉄割アルバトロスケット公演「SOLT」」
なげやり倶楽部やワハハ本舗を彷彿させる無意味なコントが休憩を挟んで33連発.演劇関係者には黙殺されていて音楽関係者には受けていると聞いたが何となく納得.
△10/28 ZAZA「劇団・老人決死隊『歴史から抹殺された3つの証言』」
蛮天門氏には惹き付けられるがこれでは芝居じゃなく演説あるいは講演会だ.
△11/10 松濤美術館「三沢厚彦アニマルハウス謎の館展」
2018
○1/8 木乃久兵衛「天麩羅劇場公演『亀五郎のポルカ』」
△1/13 plan-B「山谷やられたらやりかえせ」特別上映会――ジョーの詩を読む{あさってのジョーたちへ」
△2/24 ビリケンギャラリー「ひさうちみちお展」
新作マンガを描いて欲しいものだが.ピンバッジを購入.
×3/4 ICC「未来の再創造展」
○3/10 東京オペラシティアートギャラリー「谷川俊太郎展」
大盛況.さすがは日本で唯一「詩で食える詩人」.要は「俺様」展なんだが嫌らしさを感じさせないのは育ちがいいからでしょう.年譜を見て大変裕福なお坊ちゃまだったことが分かった.朗読+映像+効果音(楽)のサラウンドで聞かせる「ことばあそびうた」の詩(「かっぱ」や「いるか」)などインスタレーションとしても飽きさせない工夫あり.
○4/30 青森県近代文学館「本の装い展」
○5/11 松濤美術館「チャペック兄弟と子どもの世界展」
○5/13 練馬区立美術館「戦後美術の現在形 池田龍雄展――楕円幻想」
旺盛な創作意欲に圧倒された――90歳で現役バリバリ.どちらかというと平面作品よりもオブジェが好き.展示作品リストをざっと見たら映像作品《梵天》(1974)の撮影・編集が乙部聖子氏だったので「へぇっ」(フィルム展示のみで上映はなかったのが残念).また解説文の中に「ニルヴァーナ・コンミューン」というのが出てきてメンバーに水上旬氏の名前があったのにも「へぇっ」.
○5/27 有楽町スパンアートギャラリー「諸星大二郎原画展」
Tシャツが欲しかったが高いので断念.
○6/2 青山ビリケンギャラリー「鴨沢祐仁とイナガキタルホの世界展」
展示とは関係なく根本敬のピンバッジを購入.
○6/9 高円寺ギャラリー来舎「熊楠と猫展」
絵葉書と扇子を購入.
△8/11 練馬区立美術館「芳年」
無惨絵だけじゃないことは分かったけどやっぱり国芳師匠のほうが好き.
○8/16 岩手銀行赤レンガ館「さいとう・たかをゴルゴ13用件を聞こうか……」
さいとう・たかをは花巻に住んでいるのだそう.
○同 もりおか啄木・賢治青春館常設+「宇田義久展」
○9/29 足立区立郷土博物館「歌川広重没後160年広重目線」
構図が面白い作品を選出し技法の解説と描かれた場所の地図(当時+現代)を付した面白い企画.図録があったら買うのに作られていなかったのが残念.
○10/14・15 高田馬場ROCKETIIDA「発掘!おかべいりか展」
昨年7月急逝した絵物語作家(知人なだけにショックだった)の未公開クロッキー帳等を公開.もっと知られて欲しい作家.
○10/27 有楽町出光美術館「仙漉邇^」展
しりあがり寿の元祖みたいな絵ばかりではなく元々はシリアスな画風だったのが隠居してからユルカワ系になったらしい.良い絵.還暦過ぎて隠居してから25年間旅行と趣味に明け暮れ87歳で大往生という大変羨ましい老後.
ライヴ
2018
△2/24 高円寺グッドマン「吉野繁+竹田賢一+伊牟田耕児・イノスボクス+福田」
○4/18 高円寺グッドマン「マナムラミノ・吉野繁+高橋朝+伊牟田耕児」
○5/13 高円寺グッドマン「山口正顕+桜井・吉野繁+鈴木美紀子」
○6/9 高円寺グッドマン「吉野繁+阿坐弥・MJO」
△7/13 高円寺グッドマン「吉野繁+竹田賢一・TheLonious」
△8/4 阿佐谷イエロービジョン「地下から月へ〜今日人は心に〜」フクゾウ・月本正・夜光虫・ハーマジェスティック皆バンド
△8/25 阿佐谷イエロービジョン「地下から月へ〜因果律なんて知らないよ〜」挽歌、子守唄・砂山続き・バタフライ・エフェクト・チヨズ
△8/26 吉祥寺galleryナベサン「山崎春美のカンレキ遁走曲」竹田賢一・関谷泉
△9/7 高円寺グッドマン「相生雨水・吉野+吉本裕美子+ 」
○9/16 黄金町視聴質3「ジャンプス・倉地久美夫」
ジャンプスは圧倒的に技巧的だが知的遊戯止まりのアコースティックミニマムポップス.京浜兄弟社系に通じる適度に抑えた形で演じられる狂気とお坊ちゃん芸はやや見苦しい.
○9/17 神保町試聴室「倉地久美夫+外山明+高岡大祐」
△10/6 高円寺グッドマン「鈴木達治・吉野繁+竹田賢一」
○10/13 大久保ひかりのうま「まだ生きてる(鈴木健雄ソロ)」
△11/4 高円寺グッドマン「[山口正顕+渡辺昭司・吉野繁+伊牟田耕児」
△11/30 オーチャードホール「キング・クリムゾン公演」
レコード
×Can"Can"(1979)
11枚目.あのCanだと思って聞かなければ悪くないロックアルバムかも知れない.カローリのvoにはダモの面影を感じずにはいられない.だが往年の音楽の魔法は望むべくもない.A-3"SundayJam"は楽曲もギターもまるでサンタナ.B-3"E.F.S.No.99CanCan"(天国と地獄)を聞いてGGのアルバム"MissingPiece"(1977)を初めて聞いたときの落胆を思い出した.
2018.11.19 GESO