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タイトルGESORTING 151 辞書の余白には不可能の文字が
記事No10
投稿日: 2008/03/02(Sun) 15:07:31
投稿者geso
[居酒屋]
 二年ぶりに南千住に飲みに行った.
 大坪屋はちょい気難しげなお姐さん共々健在だったけど,鶯酒場が,駅前再開発のせいか跡形もなく消えてて,唖然.いーい感じの,オヤジ酒場だったんだが...
 やはり旧い居酒屋にはマメに行っておかなくちゃ,いつなくなるか分かったもんじゃない.

[読み方]
 松井今朝子の短編を読んで,「税」の訓読みが「みつぐ」だということを,今更ながら知った.
 やはり税金は,お上に「献上する」カネなのだった.

[定義]
 日頃何気なく使っている言葉の意味を,辞書を引かずに思い込みだけで説明する遊び.
 実は誰だって,自分の頭の中の辞書を,無自覚のまま日々編纂/改訂し続けていると思う.

・A級/B級/C級
 趣味の序列.知的でかつ健全なものをA級,知的でかつ悪趣味なものをB級,B級のうち知的に劣るものをC級と見なす.
 理屈としては,分類上,これらの他に「知的ではなく健全」だとか「知的ではなく悪趣味」も考えられるが,実際には,そういうものはない.なぜなら,趣味自体が,知的贅沢の産物だからである.(→ 趣味)

・ロマンチスト
 自分で自分の嘘に騙される者たちの中で,嘘の内容が「甘美」な傾向の一派.

・神
 「何故」という解答不能な問いに対する,人格化された(間に合わせの)解答の一例.

・グローバル・スタンダード
 世界の金持ちたちが共存共栄を図るために内輪で取り決めた仕様.

・脳
 頭蓋骨に溜まった膿.これがくだらないことをいろいろ考える.

 定義というよりエピグラムか...こんな調子で,いずれ纏めてみようかしら.

[読書]
○蒼井上鷹『九杯目には早すぎる』(フタバノベルス 2005)・△同『出られない五人』(ノン・ノベル 2006)・○同『二枚舌は極楽へ行く』(フタバノベルス 2006)・○同『ハンプティ・ダンプティは塀の中』(東京創元社 2006)・△同『俺が俺に殺されて』(ノン・ノベル 2007)
 遅れてきた新人ミステリ作家.一作目『九杯目には早すぎる』が気に入ったので,全作品を一気読み――全て古本で購入.
 『出られない五人』はやや構成に難のある長編,『俺が俺に殺されて』は西澤保彦並みのあり得ない設定なるも一応読ませる長編,『ハンプティ・ダンプティは塀の中』は「留置所内での日常の謎系」とでも言うべき連作短編,フタバの二冊はヴァラエティに富む短編集.
 シリーズキャラに殆ど頼らず単発作品で勝負してるところが,いまどき貴重.
 長編は今イチだが,短編はかなり巧い.作品の設定は北森鴻と鯨統一郎の中間あたりという感じだが,味わいは格段にシニカル.好き嫌いは分かれるだろうけど,久々に登場した実力ある「本格」派.今後はスケールの大きな作品を期待する.

○原宏一『床下仙人』(祥伝社文庫 2001.初版1999)
 この人の本は初めて読んだが,収録された五つの短編は,いずれも往年の筒井康隆の,サラリーマンを主人公とする短編群を想起させるものだった.
 例えば,標題作を読んで「YAH!」を,「戦争管理組合」を読んで「女権国家の繁栄と崩壊」を連想せずにいられる筒井ファンがあり得ようか(反語)?
 だが,筒井の単なる亜流という訳ではなく,奇想の質は似ているが,悪く言えばスケールが小さい,良く言えば地に足の着いたリアリティーを感じさせる,実力派だと思う.
 他の作品も読みたいが,殆どが絶版なので――人気が出てきたせいか古書価格高騰中の様子――図書館から借りよう.

△筒井康隆『ダンシング・ヴァニティ』(新潮社 2008)
 で,御大の最新作.前作『巨船ベラス・レトラス』(新潮社 2007)があまりにサイテーだったので,もう筒井は読むまいと思ったのだけど,9歳頃から読み続けている元ファンとしては,なかなか悪習を断ち切れない.
 本作は「敵」(1998)あたりから始まった老境小説の系譜に属するが,不条理コントじみた場面が,同じ発端から微妙に展開を変えて原則各三回繰り返され――このくどい繰返しの理由は最後に明かされる――それがいくつも積み重ねられて,物語が進む.
 読後感は「邪眼鳥」(1997)+「わたしのグランパ」(1999)って感じで,まぁ,幸い前作よりは面白かった.
 それにしても,どんだけフロイト理論に呪縛されてるんだろう,この作家は.

○アルフレッド・ベスター『ゴーレム100』(国書刊行会 2007.原書初版は1980年4月)
 「100」は上付数字で,「百乗」と読ませる.高いので,図書館で借りた.
 22世紀を舞台にしたごった煮SFで,これまた昔の筒井作品に通じる所も多いが,遙かにパワフルで濃ゆく,知的で悪趣味でエログロで狂ってる.量的にもたっぷりだけど,一気に読めてお腹いっぱいになり,読後暫く陶然.
 作中フロイトやユングの学説も援用されてるけど,筒井と違って,作者がマジに信じてる訳じゃない.「イドの怪物」めいたものが出て来たって,あくまで物語の要請に応じた,ガジェット的な扱いに過ぎないのだ.
 年齢でどうこうってことは普段あまり考えないのだが,ベスター(1913年生〜1987年没)が本作を出版した時と同年齢――66歳.満年齢で捉えた――の頃,筒井が何を書いていたか,調べてみた――試みに.
 筒井は1934年9月生まれで,現在73歳――ひぇー,もうそんな齢か――だから,66歳当時といえば,2000年から2001年にかけてである.
 この間,彼が発表した新作小説は,短編集『魚籃観音記』と長編『恐怖』のみ.内容的には,いずれも全盛時の面白さと較べるべくもない.小説以外は,エッセイ集,文学論,翻訳等,正直,割とどうでもいい著作ばかりだ.
 発表年で比較すればどうか.
 1980年,筒井(当時46歳〜47歳)は,何と新作の小説本を出していない――断筆宣言より13年も前なのに... 旧作――『馬の首風雲録』ほか――を数冊文庫化した以外は,対談集『トーク8』を出したのみ.
 うーん,筒井はベスターに負けちゃってるなぁ... えーえー,勝ち負けじゃあないんですけどね...

2008.03.02 GESO