煩雑な時間の種が
芽を出し葉を乱しみすぼらしい花を咲かせ
不機嫌な赤目の蠅を捕獲する
皮膚の上のむずがゆい感覚
朽木の幹の茸の菌糸
崩壊する水晶
寄生木とボルボックス
階段川
僕はかつて紙みたいな少女に恋して
川沿いの道ををがたがた歩いていた
不信とはどんな秘密の共有だろう
淡い色のマーカーで辿る
恐竜の滅亡と人類の起源
テオシントが玉蜀黍になるまでの
愛が権力となり世界が戦乱の領土となるまでの
名付けられない時間の数々
そして幾多の恋も行為も
午睡の夢のように忘却したのだ
冥府の河水を飲んだ訳でもなければ怪しげな蓮の実を食した訳でもない
ただ冷たい初夏の階段川を
紙みたいな少女と連れだって歩き
ほど良く湿った風の揺らぎを
林間を巡る迷光の軌跡を
僕らと空気の微妙な配置を
記憶の中に固定した
(それから語ることは多くはない)
寒い夕焼けの単純さ
深夜ラジオのノイズを流しながら
夜明けまで微分方程式を展開し有気呼吸の秘密を追いかけ
地図と商品の時代を解剖したのだ
僕らの時代は黄金か鉄か
そんな質問も答えもなかった
質問するより答えるより
勝たなければならなかったから成長しなければならなかったから
だから質問してくれ
右か左か好きか嫌いか欲しいのか欲しくないのか
質問してくれ
有用であることの無用性について
非効率であることの効率について
殊に憎しみのごとく愛する技術について
(それだって皮相の弁別に過ぎない)
夜明けのちぎれ雲はなんと不自由な自由を空に描いてみせるのだろう
雲に水に風にあこがれて
どこでもないどこかへのあこがれが
あこがれで成り立つ場所へ
距離の匂いを感じられる場所へ
漂い流れ吹きすぎて至る
やはりどこかのちぎれ雲の下で
僕の恋した紙みたいな少女は
時の添い寝にまどろんでいるのだろう
見えない風の甘さに惹かれ
想像の王土を巡って来た
旅の終わりは届かぬ指の
高松の梢
不羈の塔へと
回帰する