「たるんだ立体座標軸で
綱渡りする道化の猿に似ていて
阿片を吸いながら
食卓塩を撲殺するものなあに」
少女は視線を空間に泳がせながら
黒色珈琲を飲みました
全体主義が没落してからこのかた
誰も訪れない喫茶店の片隅で
僕たちは謎々遊びをやっています
テーブルに厚い埃が積もり
ドライフラワーに蜘蛛の巣が張っても
誰も来ない
誰も来ない喫茶店の片隅で
少女はカウンターの埃の上に
指で複雑な模様を描く
入口の無い迷路
存在しない文字の形
「朝顔が磁場を嫌うのは
満たされない方程式の見栄かしら」
ヒントは与えられません
与えたくありません
沈黙が恐いなら
声を上げて泣けばいい
僕はものうく立ち上がり
溝の摩滅したレコードを撫で回す
憤慨してはいけません
ラジオは空電
新聞は来ない
謎々はただの遊びです
それでも納得のいかない少女は
首をかしげて僕を見つめ
僕も無言で見つめ返す
そんな饒舌と沈黙の日々を繰り返して
僕も少女もいなくなってから
全てが没落してからこのかた
誰も訪れない喫茶店のドアを開けて
「答え」が静かに入ってきます