どこからともなく鐘の音が響く
薄緑色の満月が東天に昇る
木星と宵の明星をちりばめた
西天は豪勢な黄昏の食卓だ
夕焼け空を極上の酒のように味わい
たなびく雲を麺麭のように千切れば
新鮮な酵母の軽やかな香りがはじける
南天に乱舞する多彩な光の帯は
極光か雲雷か幻影の鳥か
 北冥ニ魚アリ ソノ名ヲ鯤ト為ス。鯤ノ大イサ ソノ
 幾千里ナルヲ知ラズ。化シテ鳥トナル ソノ名ヲ鵬ト
 為ス。鵬ノ背 ソノ幾千里ナルヲ知ラズ。怒ミテ飛ベ
 バ ソノ翼垂天ノ雲ノゴトシ。
想像力の翼
欲望の翼
闇夜を飛ぶ鴉は黒白の迷鳥
ブラウン管の中の昏い迷路の支配者と
理性と感性の主導性について議論した昼下がり
理性が新酒の渋みならば
感性は古酒のように重苦く舌に絡む
宗教は媚薬のように甘く
疲れた魂を冷酷に慰めてくれる
脳に差し込まれた黄金の電極とか
指とか木馬に似たものかな
ジャンルを変えるなら「理力の暗黒面」に
屈してはならない
力あるものがおしなべて麻薬なら
理性も感性も直感も麻薬に過ぎない
火薬も決心も恋愛もまた
習慣性の退屈に耐える決心をせねばなるまい
見れば
食卓の向こうには年老いた僕が座る
こちらに座るのは果たして誰か
馬面の観音
みみず腫れ地蔵
弥勒を待ち受ける暗黒の数十億年を
誤魔化す厚塗りのファウンデーション
キスで消えない口紅の紅さ
噛む耳たぶのアルデンテ
それでは話がうますぎる
優美な晩餐が続くこの場所へ
この場所でなければ次の場所へ
昇りきった月は白銀の光を散らし
虚空を舞う無数の鳥の心臓を
薔薇色のモアレで飾る