黄昏が世界を翼の下に包み込む頃
多くの言葉は人の心を越えて
雲の蝟集する夜の産室の
露を集める茅の茎となり
感傷はすべて水の中にある
水の見えない波紋を広げ
冷静な言葉の飛翔を支えて
夜毎の
新鮮な王国の誕生を祝うべく
ひとは昏い寝床を抜け出し
つめたい光の街を越えて
透明な火の水を喉に注ぎつつ
松明を灯して梓の森へと向かうのだ
見上げれば
獅子の尾を追う大蠍の
赤い心臓が明滅し
牡羊の角
雄牛の角に連なる蔓に
葡萄の房は穏やかに光る
たおやかな乙女の引く花綱の
葩は彗星となって天の三角形を巡る
紫紺の空に気の触れたアトラクターを残し
「見たまえ 世界は美しい」
美しく構えられた世界に
住まう時間の有限を
踊りあかす夜の牧神
笑いさざめく夜の子供達には
無垢の栄光が宿るだろ
混沌の森の揺らぎから
絡む葛藤のフラクタル
精緻な工学の曼陀羅模様を
未生の言語で解読せんとする
解読は可能なりや
あらゆる理路と非理の連鎖を
辿り尽くせないならば
酔うこと
狂うこと
言葉の裂け目で哄笑すること
薄明の
大気の擾乱に身を任せて
天の狼の走り去るあたり
竜胆色から秋桜の色まで
沸騰する大気とともに舞い上がり
舞い上がり
舞い上がり
舞い上がり
舞い上がり
舞い上がり
舞い上がるのだ
「見たまえ かくも世界は美しい」