午睡しているうちに
蝿が卵を産みつけたらしい
唇の周囲が妙に美味だ
開けっ放しの窓の縁に
コウモリが三匹ぶら下がっているのは
夏の盛りのジョークである
宿題のレポートが遅々として進まないのは
厳然たる悲しい事実である
だるくて眠いから怠けている訳ではなく
隣の娘さんとの約束だから
僕は昼下がりの埃の道をてくてく歩き
廃工場裏の睡蓮沼に泳ぎに行く
河童も魚もいない濁った水の中で
まだ青い菱の実に素肌で触れれば
機雷みたいに爆発するのかね
後足の生えかけたオタマジャクシを食べながら泳ぐ
あなたのそんなところが好きなのと
隣の娘さんは僕の財布から
ぐしょ濡れの伊藤博文をつまみ出す
アイスクリームを買いに行ったきり帰らない
僕は向日葵と鳳仙花の花壇に寝ころび
死に絶えた夏の神の唄をうたう
暮れてゆく空と眼球の間で
蜘蛛がせっせと巣を架けている
夜の蛾や羽虫のために
けれども僕は起き上がりしなに
彼の努力を無にしてしまう
蝉の樹は沈黙した
蛙たちは鳴き始めた
隣の娘さんは新しい男を見つけて
花火を見に浜の方へ行ったのだろう
階段をきしませて部屋に戻ると
コウモリたちは夜の散策に出かけたらしい
薄暗い寝台の上で二人の友人が
酒壜を抱いて待っている
それから僕等は夜更けまで延々と
襲って来る蚊の群れと戦いながら
夜明けまで延々と騒いでいる