塩臭い沼沢を渡り
死人の里へ行く
夜鷹の鳴く森
鬼灯の点々とともる古里の
土塀に絡まる蔦の葉影
髪を乱した泣き女たち

婆の注ぐ番茶で喉をうるおし
酸っぱい茄子の漬物を噛んだ
朝は鳳仙花の葉の隙間から
すでに異形のものが呼ぶ
生死のあわいも定かでなく
岩間の淀みで沐浴する
乳呑児の泣く声がする

薄暗い茶の間の
塗りの剥げた卓袱台の上に
しおれたタンポポの花輪が一つ
セピア色の将校がじっと見おろしている

鶏が締められ
赤茶けた土間に同じ色の羽毛が散った
湯気の立つ土鍋を目の前に据えて
渋紙のような老人たちが
果てしなく古い謡を唄っている

蛾の舞う薪小屋の裸電球の下で
目の強い少女に呼び止められた
海百合を見たことがあるかと訊ねられた
薪の上に腰を下ろして
海のことをしばらく話した
鋸屑の匂い
遠雷

深夜雨
ヤツデ泣く
唐紙はたはた
水子数人流れ
墜落睡眠
地蔵と弥勒が口喧嘩している夢を見る