海月から油を取るのは、夏の満月の夜と決まっている。風の凪ぐ夕刻、水平線に薄緑色の満月が浮かぶ頃に、我らは浜に集まり、普段は塩を煮る大釜に海月を満たし静かに火を燃やす。大切な海月を焦げ付かせぬように、砂を混ぜた松脂を、静かにしずかに燃やすのである。
そうして銀色の月が照らす夏の短い夜を、我らは声低く語りつつ、火を絶やさぬように過ごすのである。
朝霧が消えるまでに釜の中は半分ほどに煮詰まる。夥しい海月の死の中から、わずかな帯黄色の油が浮かんでいる。我らはそれを透明硝子の小瓶に入れる。それから再び満月が巡る夜まで、単調な海の日々を過ごすのだ。
短い夏の終わりに、異国の商人が村を訪れ、ひと夏の全ての海月油を一枚の金貨で購って行く。それから海は荒々しい灰色に変わり、我らの働けない日々が始まる。
異国の人が海月油を何に用いるのか、我らは知らぬ。冬のいちばん暗い月の終わりに、我らは集い荒海に金貨を投げ入れる。月影に似たあえかな生き物すらはぐぐむ海の、優しさを再び取り戻すために。我らは祈るのである。