航空小包郵便で
小さな笛が送られてきた
吹き口に下手糞な猫の顔が刻まれている
「これはイタリアの田舎の市で
ジプシーの爺さんから買ったものです
爺さんが口をすぼめてこの笛を吹くと
猫が雲のように群がってきたよ」
旅行中の友人の
簡潔な手紙が添えられていた
僕は彼の友情に感謝しつつ
その夜は布団を敷いて寝たのだが
ある晴れた日曜日
ポケットに煮干をいっぱい詰め込み
郊外の小高い丘で笛を吹いた
甲高い珍妙な音色だった
しばらく吹いているとみけ猫が一匹
下の農道を通りかかった
ここぞと力を込めて吹きまくったが
怪訝そうにこちらを見上げただけで
すぐに何処かに行ってしまった
小一時間ほども吹いていたけれど
息が続かなくなって遂にあきらめた
坂下の駐車場で水を使わしてもらい
煮干は付近の飼犬に呉れてやった
それから僕は笛を吹きふき
青草の萌え始めた郊外の道を
黒土と埃の匂いを嗅ぎながら
ゆっくりと歩いて帰ってきた