光の無い国を行く
最初の闇は嬉しい
仮象に満ちた景色は見えず
太鼓の音のみ勇ましく響く
しかも大脳の回廊で
干涸びた比喩の風信子
輝かない風見鶏
利口者の瀝青炭に焼かれる
野火のたなびく煙が見える
遠くから次第に明ける東雲の
影は不可視だが
樹々の茂る丘の頂きで
遥かなる春を呼べば
雲は群がり遠雷光り
能ある鷹は爪を噛みかみ
日々の礼のために
大根を植え酒を醸し
死者と生者を祭る日を夢見る
西瓜の花咲く浄土に向かう
苔むした石の街道を
子連れの僧たちが歩み始める頃
六道を旅するひともまた
永い嘆きの塔を離れ
雲に絡まる過去となる
春は葉の光
菜の花畑はなだらかに続き
呪いの春を封印する
天は晴れるや
乳は溢れるや
露に濡れた羊歯を踏みしめ
今ははや光のある国を行く
夢中の旅