T
アンディ・マンホールに落ちて見越しの松は夜明けに したたる漏刻の鼻緒を切って慟哭する赤道を半回転する 朝食べる黄金回路の巡洋艦はガラスのサーカスに茸を生やす甲状腺ホルモンのように美しく 泣いたコンクリートの脳髄に火焔縄文を刻んだきり眠ってしまう蜻蛉に似た骨片である 鯨の遠吠えが響く舌苔の原生林に消火器の雨降る正午 ウエーバーの法則に従ってクラゲがFM電波を乱した三畳紀は遠い 今海岸を豆腐片手に帰ってくる逢坂の関越えてうぐいす放電コオロギ分裂赤い口半分ああんと開けて見越しの松にぶら下がる名残の夕陽背にして 祭りが始まる 官僚機構に花が咲いて電柱にたわわに実った目覚まし時計がひとしきり沈黙する宵だから 錆び鉄が舌を出す山背に神経繊維絡みあい即席塩に突き立つ星空が空き瓶に似たサルバドール・真理を連れてインド魔術と日付変更線で電話する その間に祭りは街路樹に放火しつつクラゲに衝突して砕けたボヘミアンカットグラスに盛られた鉛筆の芯を食べる やんごとなき深夜の進化表を引き裂く蛙の合掌を土手から見下ろすクロロホルムの仮面に有明の月を従えて帰ってくる 夜明けを煮炊きする下水道の家系に光速の鐘が鳴り柱の下で白骨化した赤子が泣いて ポリウオーターポットに夜明けの一切れが落ちる頃 横断歩道の中央にしゃがみ込んだ倒錯イオンが網を張った雲に白露を宿らせてオブラアトの一日に祝福の放屁をする

U
アンディ・マンホールに落ちて見越しの松は夜明けに 猿の葬列を見送るタラバガニの肢の間からウインクする 朝空の焼け跡で半身不随の定規をついばむ結晶朝顔は練り歯磨きを食べながら手裏剣を投げる祖父の横顔のように悩ましく 泣く泣くガルガンチュアの肋骨に唐辛子をふりかけたきり眠ってしまうティッシュペーパーに似ている 本棚に巣をかけて麦茶を集める蜜蜂の遠吠えが響く午前中の流体力学 ハンダ付けされたプールの底で笑う塩素の春遅く 角砂糖の陰に隠れた灰色の像の耳がひらひらする たくさんの風鈴を下げた雨雲が怒った顔で泣きに来る 空井戸から舌を出すオオアリクイがあわてて電気釜を洗う時 真理が降る 真赤な幟を立てて冥王星から初荷が届く バリウムを呑み過ぎたウグイス豆の書いた私小説は没だと告げられ 常用対数の今でひとり相撲をとって遊ぶ御用エントロピー学者は縞蛇の股間を撫でて笑う オレンジ水筒鶏蛔虫の出没する黄昏に 分裂坂を下る石炭記の木綿豆腐が新理論をがなり立てる X線の窓越しに水蜜桃を食べる日付変更線は見えない 淫らな万年筆がソケットと歩く夜の染色体地図の裏通りを 全ての恒星がアイスクリームを舐めながらうらやましげに通り過ぎる

V
アンディ・マンホールに落ちて見越しの松は夜明けに 泣く泣く天丼を海老固めするセーラー服姿の海鼠の妊娠線を綱引きする 泥縄空港の青空を水浸しにする春分の日の 目的関数は逓信大臣と駆け落ちしてサイパンの海に散る ある電卓の朝をよじ登るタラコ色の煙草は目も鮮やかに三回転二回ひねり月面横断歩道中膝栗毛 そして兵子帯は唐突に解ける エムデン・マイヤホッフ・パルナス海淵に沈む宝船の断末魔のいびきが自由が丘団地の百五十八個の電気釜に響く頃 野牛の大群がウースターソースの海に小舟を浮かべて新大陸へと船出した洪積世は遠い 今は昔 直下型地震だけが知っている天丼の出生の秘密を探り 螺旋探偵がドッペルゲンガーを抱いて核弾頭の中で眠る春眠 光学のため沈まない太陽の髭を毟る伝声管は 充分に塩辛の堕胎を完了したアンディ・マンホールの腹式呼吸ではない むしろ昔の馬と逢い引きする改訂ウォーレス線上のアリアとケルカリア 裏切られたカブトガニの中腸腺を中傷する春巻きに似た小麦である 正体不明の見越しの松が元気に黒板を飛び跳ねる黄昏の五分前 天使の目刺しを焼く煙がたなびく寄せ木細工の空の下 セーヌは流れ水死体は流れ ウグイス餅は薬鑵を囓り 尋常小学校の地下座敷牢から非線形代数が脱走するにぎやかな連続変換音が谺する 中年の欲望の時来たり 倍数体ミシンと汎用コウモリ傘がMOSカスケード上で盆踊りする 心温まる風景を尻目に卵豆腐はきんと雲に乗って去る 楽しい忘却の日々を かりょうびんがは夥しく舞う 魔法瓶が発狂する理由の一つである 今また午前三時三分前の三十三回転を 止める術無き導函数の変数道行き定数心中 喝采する万年青相場の鬼ははかない懐古の繭の 先天的に恥ずかしい文明の夜明けまで 栄光の金時芋は不可視の領域で旋回を続け 悪は亡び善は急ぐのである

W
アンディ・マンホールに落ちて見越しの松は夜明けに したたる漏刻の馬を鋸引きながら笑う北極の原口陥入部を三十三回転する 絶壁を昇る太陽は絶えて久しい缶詰のストライキ権に柳葉魚を泳がせる紫外線に過ぎず 朝食べる黄金の巡洋艦はガラスのサーカスに茸を生やす玉露の茶柱のように美しく 泣いてコンクリートの脳髄に火焔文字を刻んだきり眠ってしまうヒキガエルに似た骨片である 超天然色七色の空を飛ぶ大名行列 鯨の遠吠えがしきりに響く舌苔の原生林に消火器の雨降る正午 流体が畑の土を掘り起こして石英ガラスの収穫は近しと見る 解体工場前の四つ辻でコバルト色の犬が流星に打たれて泡をふき 下水管のオレンジジュースが優しく冷え ウェーバーの法則に従いクラゲが爛熟して赤外線を乱した白亜紀は遠い 雷雲も遠い 完全自動巻の太陽だけが時々水を飲みに降りて来て まどろっこしい窓越しのまどろみを惑わす 角砂糖に仕込まれた杖である 今海岸線を豆腐片手に帰ってくる逢坂山の関越えてうぐいす放電谷渡りコオロギ分裂箸添えて赤い口半分ああんと開いて見越しの松にぶら下がるうらみ名残の夕陽片手に 錆び鉄が舌を出す山背に神経絡みあい 炭化した街路樹の下でいくばくかの白骨が啜り泣く 静かだ 誰もいない 豚も馬鹿も鯨もいない

X
アンディ・マンホールに落ちて見越しの松は夜明けに 分裂した自己を葬る昔話の首筋を舐める舌の長い黄金のタラバガニに丈夫な改訂ウォーレス線を巻きつける 朝焼けだされた八重咲アサガオはポマードを食べながら鏡台に 楊子を植えつける洗面器のようになつかしく 泣きそこなって笑う玉露の中の角砂糖に似ている 発音結核の鯨が咳き込む熱帯雨林にパチンコ玉と栄養剤を降らせ妊娠した貧乏神がグレープフルーツジュースを欲しがる正午一分過ぎ 大音響とともに国語辞典に毛が生える 準光速の河の上を流れる北回帰線下り急行列車に七色のラクダがひかれ だから肉屋が生きている カンブリア紀の肉切り包丁と万引き常習の弁当箱が競って望遠鏡にラブレターを書くうらやましい時代に 恥ずかしい地方自治体が白昼往来で小間物屋をひらく 乏しい表情がますます硬く ついに泣きながら下駄になる 便秘症の河馬が目指す富士のお山の頂上で 尊い象徴が神学大全にまたがって枯れたゼラニウムを揺さぶる深夜があるなら アンディ・マンホールに落ちて見越しの松は夜明けに したたる漏刻の鼻緒を切って慟哭する赤道を半回転する