わたしは夏だって春を探す永遠の不器用な蟹になりたい
今朝も下品な太陽がねじりはちまききりりと締めて洗面器をたたきながら安っぽい化繊の空を渡ってゆく
その太陽の腹巻きして昼寝している姿を想像する必要はないけれども
純良クロームメッキの重戦車がわたしの耳元で地雷を踏んづける間抜けな爆発音で気が遠くなりしばらくしてから近づいてくる
北回帰線で波形の歌をうたうのはわたしのドッペルゲンガー貧困な想像力に衣をつけて揚げて食った五時間に及ぶ重力異常
気体博物館の地下で楽しい夢を見ることもできないわたしの生命線は唐突に途切れた
それとも土手でわたしの手を握りしめて優しくほほえんだ老婆の歯茎のほくろには何の意味があったのか訊ねたい春は何故探したいわたしにとって季節か
桜植物が一列に咲き狂う春季節はわたし人間のあこがれ感情わたし人間の腸捻転症状遅くとも早くない話が犬動物を咥えて銀紙張りの空の空をゆるやかになめらかに掃除する
知らないバス通りで気が触れてわたしの凍えた指にも精霊トンボがだらしなく口を開けて春の行方は教えてくれない
屠殺場五号の二階のパーラーで血みたいに素敵なストロベリーソーダを飲みながら硝子の中のわたしは喪章をつけた蟹ではない
鋸屑臭い日没の対立遺伝子は東の空に飛びさる夕焼けを背負って真新しい便器のような夜に向かって
けれど眠れないわたしは細く鋭い塔のてっぺんで巡洋艦や電気掃除機がわたしの耳に産卵しにくるからわたしは
悲しみに蒼ざめた阿呆のマリオネットの首を力まかせにねじ切る
虫食いの夜空にもドッペルゲンガーはいたわたしは逃れられない奥深くかすむ霧の迷路にいて蟹の眼の水晶体の海にいて狂おしく指を乱しながら悲しみに蒼ざめた阿呆のマリオネットの首を力まかせにねじ切る
それは招かれる潮のわたしの血液を混沌海に還元するいらだたしい象徴の黄金巡洋艦との別れは突然来るものと納得できないわたし
わたしは合成される季節の恥ずかしい盲目のキュウリを栽培する
わたしは林立する時計台の闇を駆け抜ける熱電子になりたい
わたしは玉ねぎと香水瓶を結びつけない唯一の理由を知らない
わたしは蟹に似た物質を発見する化学の力である
酵母は無限に人生の後ろから無造作に痙攣する
春は来ない