燃えるズルチン入り落花生にあこがれの春が見え隠れするわたしは電信柱のてっぺんに腰を抜かして飛び去る鴉の群を見ている
春はわたしのあこがれわたしの腸捻転遅くとも早くない話が犬を銜えて銀紙張りの空をゆるやかになめらかに掃除する季節の花祭
春は珈琲カップの底にいつも太陽や髪の毛を沈めてけたたましく笑うけれども
今は円周率の蟹だけがバースデーケーキの苺ゼリーを舐めるわたしの城下町
冬から秋にかけて進化するわたしの系統異常発生250ヤードのテニスコートの夕暮を回遊する魚たちはカマキリ色の帽子でとてもやさしく
ある日四丁目の薄暗い交番は亀の子サイダーであるような青空が見える
私は憂鬱な歯を磨いてひとりうなぎ登りになるとしても
ビタミン青空筋肉チョコレートの好青年それは
オルドビス紀の谷川岳で後頭部陥没になったわたしのドッペルゲンガー
粗ナメクジ色の蔵びくらはセーラー服を着て青い便箋蒼白いホルマリン漬けを売っている文具店の前を歩くあざやか色の春はカメレオン
夜は暗くて星も見えない電信柱の頂上で珈琲カップの底に隕石の燃え殻が沈んでいるのはわたしの秘密わたしの左心房から輝きあふれ出る粘っこい血を愛してクレタ島のサーフィンボート不吉に燃える病気の子供は猫いらず
月夜に隠された鉢植えのインドゴムを機関車が駆け抜ける全天恒星図のような私を許して
太鼓を叩きながら昔の恋人に会いに行く
抱いてちょうだいリップクリームかたつむりの内側に塗ってちょうだいたくあん石の重さで
わたしの実物大の悲しみを抱いて物陰で淋しがり屋が焦げている昼下がり
鍍金工場の四つ辻で流星に打たれて泡を吹くコバルト色の犬を許して
デジタルコロッケを食べている
わたしの春はもう戻ってこないの月やみだらな雨は降るけど
お願い戻っておいでもう二度と傷つけないから
そして私は不当にうろたえて冷えかけたホットチョコレートを注文する
角の肉屋で貰った染色体地図は結局役にたたなかったけれど
夢見すぎて気が触れてドッペルゲンガーと長い長い午後のおしゃべり
ドッペルゲンガーはわたしではないわたしは蟹ではないわたしのドッペルゲンガーは白氏文集を愛したやさしい蟹である
わたしは午前二時にアイスクリームを食べる内気な女装青年ヘリコプターが好き
わたしは土曜日春を捜して核外電子配置図を買いに行く黄金食の巡洋艦アップルパイとレバーが好き
わたしは不安不安と吠える犬を横目にピーナッツバターを塗るあのリメンバー
わたしは完全自動巻耐震耐水曜日日付付水晶時計を舐めるあのリメンバー
わたしは養魚場にしゃがみ込んで焼夷弾を舐めるあのリメンバー
わたしは山猫色の乳首を舐めるあのリメンバー
それから北から空っ風が吹いて来たから蟹は冬眠するセロテープを巻いて雲行きの電車でひたむきの風に乗って
わたしの松果腺を少し軽蔑すると断定する根拠が見つからない潮干狩り
軽い軽いポラリスミサイルの土俵入りをテレビで見ているうちにわたしは動けない
昨日歩道橋から投身自殺した蟹が換え廊下を買って帰ってきたり来なかったりする逢魔ヶ刻に魚の粘る鼻中隔欠損
わたしは不在の春と連れだって鬼灯を持って血液銀行強盗に行くそれから
私は不在の春を探して(そのとき玉ねぎ色のフロックコートを着た猫が窓から虚空間に飛び出した)むず痒い黄昏の街へと彷徨を続ける