※

「おれの欠伸の口に飛び込んできた男
 片手に握られていた忌まわしいサーベルの銀色の輝き」

     ※

「僕をのみこんだ竜の 血管のように美しい体系」

     ※

「おれは戸惑うほかはない
 おれは人を殺めたこともないのに」

     ※

「球形の迷宮をシムボルと逆方向に奔走しながら
 水死人の肥満を感じてみる」

     ※

「おれはいつものようにおとなしく草を食んでいただけなのだ」

     ※

「知識ハ〈力〉デス
 重要ナノハ〈プロセス〉デス」

     ※

「僕の耳を聾するキセイ虫どものやかましいアドヴァイス
 まず刺し殺すべきはこいつら!」

     ※

「おれが殺されることは大した問題ではない
 ただ まずいことに
 おれは今 孕んでいるんだ」
 
     ※

「十重二十重に絡み合うこの空間では
 食道も産道も区別がつかない だが
 ラバー・ソウルが溶け出していないところをみると
 これは近道に違いない」
 
     ※

「産道で蠕動している卵をあの男が見つけたら
 おお大変なことだ!」

     ※

「マズ……マズ破壊ヨリ始メヨ!」

     ※

「おや あの声は
 ひょっとしたら僕の仲間?」

     ※

「だが それ以前に恐れていることがある
 卵の中にいるもの――
 それは本当におれの息子なのか?」

     ※

「懐しい空耳を胸に留めおき
 僕は暮色の胎内を突き進む」

     ※

「こうして沼に没してゆく夕陽を眺めていると
 おれはあの無謀な男のことも忘れてしまいそうだ
 いつもと変わらぬ平穏な夜の訪れ」

     ※

「僕の剣は絶対の隔離のための蛇
 僕の剣は曙を覆う夜の緞帳を切り裂く呼び水」

     ※

「おれの中の何かが突き刺され切り裂かれているのを感じる
 だが苦痛なんてない」

     ※

「僕の剣は絶対の隔離のための鐘
 僕の剣は宵闇を隠す真昼のベールを引き裂く引き金」

     ※

「途方もなく長いこと生きてきたおれの神経は
 途方もなく薄っぺらな拡がりをもってしまったとみえる」

     ※

「穴ト路地ニ染ミ入ル目ト頬
 アレハ〈ゴリラ〉・増エル〈ブルドッグ〉」

     ※

「非人称の声が寝言を言う
 僕は隘路にさしかかったらしい 思い出すんだ
 町並み外れた界隈を歩いて人並み外れた考えを抱いた
 天啓の日!おや 何か動いている
 あれは何だ?」

     ※

「おお!とうとう見つけたらしい」

     ※

「これはどう見ても巨大な卵だ
 しかし 竜の卵はかくも理想的な白球だっただろうか?」

     ※

「奴は卵の表面をコツコツ叩いたり
 耳を押し当てたりしている様子だ
 だが おれにはなす術もない
 何よりも困ったことにおれは眠くなってきた」

     ※

「僕は決意した
 この卵が一つのシムボルであり僕に対する挑戦なのだとすれば
 かち割って中を発くまでだ
 まず破壊より始めよ!」

     ※

「眠気がおれを蝕ばむ
 この眠りが最後の眠りになるような予感がするのは
 なぜだろう?」

     ※

「僕は剣を大きく振り上げる
 ふいに〈階級〉という言葉が浮かぶが理由は判らない」

     ※

「おれは眠りつつある
 ふいに〈墓〉という言葉が浮かぶ ああ
 おれの墓碑銘は何と刻まれるのだろう?」

     ※

「僕は満身の力をこめて卵に剣を振り下ろす!」

     ※

「ディプロドクス
 パラドクス
 ココニ眠ル」

     ※

「鏡」