何度もなんども生まれて
何度もなんども死んだ
空の下で
七色の空の下で
僕は回想しながら迷路を辿る
「常に右手で壁をまさぐりなさい」
時としてマンホールに似た迷宮
水の滴りが
ポチャンポチャンと
僕を湿らせ 錆びを呼ぶ
数世紀前の澱んだ空気
ああ ああ どこから脱ける?
草の匂いが懐しい
草の匂いが懐しい
何度もなんども生まれて
何度もなんども死んだ
あの空の下で
真っ青な空の下で
グリーンのカーペット
若草の匂い
落雷を夢にも見ないで
駆けて 駆けて
言葉を殺した?
草原と部屋とが重なり合うとき
驟雨 落雷
仮想の恋人たちは地面に融け込む
そうとも 現実は残酷だ
僕は煖炉の前に地図を拡げている
四半世紀を旅したものの
窓は形式的な分岐点のまま
恥じらいの思想はまだ開花しない
固く身を縮め
自然の嘲笑に堪える
閉じた目と耳に黴が生え
長いながい雨の季節の始まり
あの時 僕は生まれた
あの時 僕は死んだ
胡桃が割れてはじけ飛ぶ
蜂蜜の夢
指は肉襞の秘密をまさぐる   *
吐息と吐息
汗と汗
ミルクの河が流れ
外へ 外へ
街は粘液に浸る
時計の針を折るのは誰?
マネキンたちの街路で
月は冷たく微笑む
僕の影は背中にまわり
あれはコーヒーの香り?
右足 左足
右足 左足
突発的な穴倉よ
あの危険な匂いは
屍臭そっくりだ
僕はぼくの裏にまわり
背中に折れた竹槍を突きたてる
悲鳴が共鳴し
模倣の空間は縦に引き裂かれる
鮮血は歩道と車道の隙間に流れ込み
河は真紅に染まるだろう
地表からゆっくり起き上がる黒いモノ
歴史はいつだって黒かった!
何度もなんども生まれて
何度もなんども死んだ
空の下で
暗黒の空の下で!
水車小屋で犯される娘
白い羽毛の散らばる中で
ズタズタの笑いが渦巻く
僕 ぼくはちぎれたひとさしゆび
舌は語らない
舌は語れない
扉を開くと小屋は裏返しとなり
袋小路の空間に窒息しそう
ごとん ごとん ごとん ごとん
脳の中で音を聞き
背中のナイフをひっこ抜く
あの時 僕は生まれた
あの時 僕は死んだ
永劫回旋 手動の暗天
風に吹かれたシナリオの切れ端
ああ 乾いてはまた
ああ 乾いてはまた
幻想の花畠はそれ故踏みにじられよ!
死を友として 友を死として
僕はまた友呼ぶ刃渡り
サアカス小屋の丸天井にヤモリのようにへばりつき
恋人の頭上に真っさかさま
二人の死体はいれこになって
どうだい こんなオブジェは?
継ぎはぎの空を破って血の雨を降らせ
人は皆 蛭となる
腐敗の揚句
街はクレバスの中へ
最も単純なハッピー・エンド
終わりは始まり
始まりは終わり
あの時も僕は生まれた
あの時も僕は死んだ
氷河廊はその白さ故 汚れきっている
冷たい足音が命の重み?
超近代の迷宮で
鋼の支配者は爪を研ぐ
僕は扉を閉じ鍵をかけ
それでも今度はこっち側に!
旅に終わりはないと覚悟を決め
部屋の中央に坐って
時間を遊泳する
疲れた肩に手を置いてくれる
理想のアイを見つめるな!
安住の夢はもろい貝殻だ
ああ しかし死にきれない目を持って
僕は忌まわしい太陽を直視する
また僕は生まれ
また僕は死ぬ
堕ちてゆくその先は
出発点に等しい
か?
ああ 駄目だダメだ
戻ろうもう一度!
僕は歩いている!
時間のない道を!
壁は苔むして異臭を放つ
ヌルヌルの迷宮のただ中で
滴り落ちる夢の雫
昨日 今日 明日
昨日 今日 明日
回路を断つ勇気は何処から?
そして何時になったら?
ああ
何度もなんども生まれて
何度もなんども死んだ
空の下で
七色の空の下で

            *会田綱雄「鴎」より